コンクールの三日前、黒鍵に引っかかって右手中指の第一関節を痛めてしまった。
すぐに痛みは引いたが、真っ直ぐにしているつもりなのに左側に屈曲している。
どちらかといえば今まで外側に曲がっていた。現に左手がそうだ。
だが、不思議なことに練習を再開してみると以前より指が回るようになった気がする。やや苦手なパッセージのある曲を弾いてみた。気のせいではなかった。完璧に粒が揃った音が出せた。昔から好きなブルレスケのパッセージも弾いてみた。我ながら惚れ惚れする切れ味が出せた。自分の指ではなく、なにかがとり憑いているようだ。リヒャルトシュトラウスの弟子で当代きってのヴィルトーゾと言われたピアニストに因んでポゴレヴィチの指と名付けた。