事件のことは大変残念でした。
そう話したのは、車5台の玉突き事故で妻と子2人を喪った31歳の会社員。
あまりにもあっさりしたひとことだった。その真意を知るまでは。
この会社員、甲斐史也は5年前にも自動車事故で妻子を亡くしていた。今回は再婚した妻とその連れ子を。
当然、週刊誌やワイドショーの格好の餌食となった。
甲斐氏の親戚や近所はもちろん、幼少期から現在まで少しでも関わった人間はみな取材拒否しない限り引っ張り出された。
中学時代に通った塾でひと月だけ同じクラスにいただけで父親の仕事でアメリカに引っ越したきり日本に戻ったこともない人間までテレビ出演させ、もはや記憶があろうはずもない甲斐氏について、名物司会者の演技過剰な誘導尋問に30分にも渡り肯定する、そんな番組ばかり放映され続けた。
それでもまだよかった。しまいには甲斐氏は鳴場坂の地縛霊に祟られているだの、甲斐氏には死神が憑いているだの、夕方のニュース番組で連日特集が組まれた。