旧友は、ときとして手強い敵である。
どこかの偉人が遺した格言、いや誰しも気取って吐きそうなセリフだが、今の状況に当てはまりそうだ。余計な想念が頭をよぎる。
どっちが主導権を握りどっちが傀儡に甘んじるか。
熊沢は、初対面の相手にも警戒心を微塵も感じさせない風貌と気さくな性格の持ち主だが、おそろしくアタマの回転が早いうえに洞察力も鋭く、思考を先へ先へと根気よく展開していく力も並外れている。さらに、そうした思考力に裏付けられてなのか、相手の出方を数手先まで読む。常人からすればテレパシーを使っているように見える。二重、三重スパイも朝飯前に違いない。たとえば、幼少期から数学好きだったら、フィールズ賞はおろか、ヒルベルト先生が出した宿題を今ごろ解いているような時期だろう。ノーベル賞なら、政治力があるか、そこをバックアップしてくれるシンパがいれば受賞しているんだろうが、彼はそんなことには昔からまるっきり興味なかった。