よ、もっさん、昼はまだかい。
うん、まだだ。
同期の村川から昼の誘いだ。
もっさんと呼ばれた俺は盛山正五郎。だから、もっさん。そして若いとき好物だったモツ鍋にも因んでいるらしい。
蕎麦の気分だが、そっちは?
うん、モツ鍋にしようと思ってな。
え? 食えるようになったのかい。
いや、これからだ。
わかった、例の事件だろ。
ところでムラさんはナマスは食えるか。
なんだい、話を変えて。…ナマスって、正月なんかしか食わねえけど、それだろ。
そう。人間ナマスってのは聞いたことあるか。
知らんな。
中国の唐の時代、即天武后あたりに遡る惨らしい刑罰でな、皇帝の后なんかが気に入らない役人や側室を陥れてまんまと処刑するんだが、生きたまま身を千切りに、というかハモに入れる包丁と言ったほうがいいな、そうしておいて生きていようがいまいが酢の入った桶にドブンと漬ける。
何だよ、そんな話、飯の前に聞かすなよ。
俺はそれでもナマスは食える。ムラさんも今食わされれば食えるはずなんだよ。だがな、モツは違う。
わ、わかった、言いたいことはよーくわかった。