会者定離 | 美術作家 肥沼義幸の制作日記

会者定離

 

 

会者定離(えじゃじょうり)、会うものは必ず離れるという

仏教の言葉。

 

2020年2月9日。オランダは台風のような強風が吹き荒れた1日に

なった。2011年からオランダ、ロッテルダムで生活を始めてから

僕が最もお世話になっている御夫妻の旦那様、Lさんが病気のため、

もう長くないかもしれないと伺い、お別れの挨拶をするための機会を

奥様が用意してくれました。

 

お別れの挨拶をする前日。

何を話すべきなのか、1日中考えていて、夜中に何度も目が覚めて

結局良く寝れずにその日を迎えました。

当日。外でビュービューと鳴り響く風の音は、僕の心の中でも

同じように鳴り響いていた。

 

Lさんはロッテルダム・マラソンを20回も完走した健脚の持ち主で、

僕が初めてロッテルダム・マラソンを走った時に詳しいコースの説明と

的確なアドバイスをくれて、わざわざスタート地点まで僕を送り届けて

くれました。完走後に隣人達と共にシャンパンを開けてくれたのは

いい思い出です。

そして、ロッテルダムで2011年から2014年までの作品をまとめた

大きな個展の機会を与えてくれたのもLさんでした。

いつもオランダの地方で展示があると御夫妻揃って共に足を運んで

くださいました。

 

Lさんにそんな思い出を話しているうちに、

ぽたぽたと涙が溢れてきました。

心の中のエモーションが吹き荒れて、溢れ出して

どうしても涙を抑える事ができなかった。

 

深い感謝の気持ちを言葉にして伝え、きちんとお別れの挨拶ができた事。

2020年2月9日は11年のオランダ生活で決して忘れる事ができない1日に

なった。

 

会者定離。

人は生まれた瞬間に【死】にむかい旅を始める。

絶対にいつかは来るその時をどう迎え、どう受け止めるのか。

Lさんは最後まで僕に【教え】をくださった。

良き隣人でもあり、友人でもあり、オランダでの父のような存在。

もっと絵を観てほしかったと思う。

 

2月末日、Lさんは天国へと旅だった。

合掌。