ミーム Ⅷ【中】迷信のミーム 都市伝説のミーム 宗教に関す…
真実のミーム
あるミームが真実であるかどうかは、生き残るミームの基準にはあまりならない。一方、つじつまがあったり、意味をなすということは、ミームが生き残る一つの基準になりうる。しかし、意味をなすことと真実であることは、必ずしも対応していない。
例えば、星占いというミームは、誕生日に基づいて星座を一つ選ぶという分かりやすさによって、多くの人々へ広まっている。しかし量子力学のような科学的な理論は、星占いのようには分かりやすくない。そのため量子力学は星占いのようには広まらない。
つまり、真実であってもそれが世の中に広まりやすいとは限らず、真実でなくとも適応度の高いミームは広まっていくのである。
進化の方向
ミームはDNAの複製に貢献するためにも、私達の幸福のためにも進化しない。自らを複製させるのがうまいミームがより複製されていくだけである。ミーム進化がDNAの複製を助けるのではないということは、例えば2010年現在、日本の出生率は低下傾向にあり少子化が進んでいることからも分かる。
しかし人類が滅べば、ミームも滅んでしまうはずである。それなら、ミームは人類の生存を助けざるを得ないのではないか。しかし現代では、人の心ではなくコンピューターを土台にした情報がたくさん複製されていることに注意が必要である。人類が生き残れるとしても、コンピューター上のミームの自己複製に人々が多くの労力をそそぐようになる可能性がある。
いずれにせよ人々の心に満ちていくのは、適応度の高いミームであり、進化が自動的に私達を幸福にする方向に進む必要は全くない。例えば、私達を怒らせ、悩ますミームは広まりやすい。しかしミーム学を理解することで、意識的なミームの選択が可能になるのである。
進化心理学
「進化心理学」を参照
人の心を進化論の観点から考察する学問はミーム学が最初ではない。脳は食べ物や危険、生殖に注意を払いやすいことや、集団に属したがるといった傾向をミーム学は進化論の観点から説明するが、これは進化心理学という学問に基づいている。進化心理学とは、心を進化論の観点から考察するものであり、ミーム学は進化心理学の理論を取り入れているのである。
プログラムされた振る舞い
コンピューター・プログラム
コンピューターがプログラムで動くように、個人は心を何らかのミームにプログラムされており、そのプログラムがその人を動かしている[1]。人は意識的に望んだのではなく、知らないうちに心をプログラムされている。例えば、宗教的もしくは無神論的な教育から、親の人間関係から、テレビ番組やコマーシャルからプログラムされている。
社会的に広まったミームで言えば、法律や慣習に従って人は行動する。お金とは何か、信号の色は何を意味するかなど、世間一般の合意が社会には多くあり、社会全体に広まったミームは私たちの生活に大きな影響力を持っている。その全てが必ずしも悪いわけではない。しかし、そうしたミームは人々に正しいと見なされていても、全て人工的なものであり、時に疑問が投げかけられて変わることもある。例えば、かつての男女の社会的役割の違いについての考え方は、「女性は家にいるべき」といった今から見れば不自由なものでも、当時の人々にとっては当たり前であった。しかし、その考え方に疑問が投げかけられ、新しい考え方が生まれた。法律もまた内容によって疑問視される。
また人は個人的なプログラムを持ち、例えば自分の持つ識別ミームによって情報を選別している。例えば、車の車種についての識別ミームを得れば、それまで目に入っても気づかなかった車種が識別できるようになる。このように、人は自分の持つ識別ミームによって、知覚するもののうち一部だけの情報を得ている。そしてどの情報を得るかによって、行動も変わってくる。
また、個人の将来に影響を与えるプログラムの一つは自己成就予言(英、self-fulfiling prophecy)である。例えば「自分は成功する」というプログラムを持っていれば、実際に成功しやすくなることである。あるいは、「自分は失敗する」といった、自己を失敗へと向かわせるプログラムを持ってしまうこともある。
同調圧力
企業などの複数の人々が構成するグループにおいては、そこに属する人が、他のメンバー全員と同じように考え、行動しなければならないという同調圧力(peer pressure「ピア プレッシャー」)が生じる[1]。例えば、子どもが友達関係の中で、他のみんながタバコを吸っているから自分も吸わなくてはならないというプレッシャーを感じることである。
グループの中に強力なミームがある場合、人は同調圧力に屈してミームを受け入れるか、周囲に不適合者と見なされながらも抵抗するか、を迫られることがある。
こうした同調圧力は、子どもたちの間にも大人たちの間にもある。そして人々は、グループ内のミームに従いやすいのである。