ミーム Ⅳ【内】利己的遺伝子の進化 突然変異 自然淘汰 進…

 

適応度の高いミーム

遺伝子の複製されやすさを適応度という。例えば、ある遺伝子が次世代にたくさん複製されているほど、その遺伝子は適応度が高いということである。同様に、あるミームの適応度が高いほど、そのミームは多く複製される。

私達の脳の持つ本能的な傾向とは別に、性質上、適応度の高いミームがある。以下のミームは「このミームを広めよ」という考えが変化したものであるために適応度が高い。

  • 伝統

過去に行われたこと、信じられていたことを、継続させるミーム。伝統のよし悪しや重要性とは関係なく、自動的に長く生き延びる。

  • 伝道

あるミームを他の人々に広めることが重要だというミーム。例えば、宗教の布教活動や、企業の宣伝などがある。伝えられる内容が正しいか間違っているか、良いことか悪いことかとはほとんど関係なしに、広まることができる。

さらに、人々の心から追い出しづらいミームも適応度が高い。次の二つである。

  • 信念

それ自身を盲目的に信じることを要求するようなミーム。どんな議論に突き当たっても心から追い出されない。伝道と結びつくと、どんな内容でも拡散できるマインド・ウイルスとなる。

  • 懐疑

心に侵入しようとするミームを疑うミーム。懐疑は信念の裏返しであり、あるミームが心へ入り込まないようにする。

伝言ゲームのように、ミームが人から人へ伝わる時には、変形が起きてしまうことがある。このため、ミームによっては複製されるのが困難となる。一方性質上、変形されにくいミームがあり、適応度が高い。この点において、以下の二つは適応度が高い。

  • 知っていることかどうか

人々がよく知っていることほど速く広まる。例えば、有名な映画の続編情報は、あまり知られていない映画の場合より広まりやすい。また変わった言葉は、よく知られている言葉に言い直されることによって、適応度が高くなる。その言い直しによって内容がもともとの意味と変わることもありうる。

  • 意味が通じるかどうか

意味の通じるミームは、意味が通じないミームよりも速く広まる。そのために、正しいが難しい説明よりも、意味の通じる分かりやすい説明の方が広まりやすい。しかし、意味が通じる話が正しい話だという訳ではない。「正しいが難しい説明」から「意味の通じやすい間違った説明」に進化することも考えられる。

あるミームが適応度が高く「広まりやすい」ことと、それが良いことか悪いことか、真実か間違っているかということは関係ない。したがって、ミームの進化は私たち人類にとって良い方向へ進化していくとはかぎらない。

性に関するミーム

『クピドから身を守る少女』(ウィリアム・アドルフ・ブグロー、1880年)

詳細は「エロース」を参照

人類の遺伝子は性をめぐって進化してきた。なぜなら、結婚相手を見つけられない宿主の遺伝子は後世に残らないからである。そのため宿主が結婚相手を見つけ、子孫を増やすことができる方向へ遺伝子は進化してきた。そうした遺伝子進化の結果、強い性の衝動と様々な脳の傾向が生まれた。

性をめぐって進化してきた脳の傾向にミーム進化は導かれ、文化はミーム進化の結果である。つまり性の衝動が文化を形成する力となっている。例えば、流行の服など性的魅力を高めたい人をターゲットにした産業もあれば、権力やビジネスなどの階層構造といった性の衝動が原動力になっているとは気づきにくいものもある。

利己的遺伝子の考え方から推測すると、性をめぐった遺伝子の進化は以下のようであったと考えられる。動物が性交渉によって子孫を作るようになった時から始まった進化は、結婚相手を見つけられた動物のみがDNAを複製することによって進んでいく。最初の頃の生物は、男性と女性の区別がつかなかったかもしれないが、性別の判別ができた方が子孫を残すのに効率的である。男性と女性の区別がつくことができるように進化すると、性的魅力のある生物の方が結婚相手を見つけやすくなる。こうして、進化が進むほど生物は性的魅力を高めていく。

DNAの視点に立てば、DNAは宿主に結婚を通じてできるだけ多くの子孫を増やしてもらう必要があった。そのため男性のDNAは、できるだけたくさんの女性と性交渉をする方が有利であった。一人の女性とだけ関係を持つDNAは進化の上で不利である。つまり、男性の脳はできるだけたくさんの女性と関係を持とうとする衝動を受け継いでいる。

性的魅力を高める進化の結果、雄のクジャクの羽は美しく進化した。

一方、女性は一年に一度ぐらいしか子どもを産めない。つまり、DNAの複製を作るチャンスが限られており、それに比べて求愛は多く、よいDNAを持つ男性を選ぶように進化した。よいDNAとは、例えば健康な体、あるいは自分と共通部分を持つDNAといった点である。クジャクの雄が羽を美しく進化させたのは、雌が異性を選ぶ側であり、雄が選ばれる側だったからだと考えられる。

女性が男性を選ぶ二つ目の基準は、子ども達を育てる父親の役割をちゃんとしてくれるかどうかである。有史以前は、男らしい男性を生物学的父親にし、子どもの育児に向いた男性を「主夫」として迎えるのが理想的であった(この場合、父親は二人になる)。

男性は女性を惹きつけるために、進化が二つの方向へ分かれた。一つはより強く、よりハンサムになるように進化する方向である。もう一つは主夫タイプの男性であり、良い夫、良い父親となっていく方向である。後者の男性は、男を騙す女性と騙さない女性を見分けられるように進化したとブロディは言う。

また男性は、権力を熱望するように進化していった。なぜなら、階層構造の中で、できるだけ上の地位にいれば、より多くの魅力的な女性と結ばれ、子ども達により多くのものを与えられるからである。そのため、男性が地位に対して持つ一般的な感覚は優位や支配といったものである。一方で、女性は地位というものには魅力や人気といったものを重視する感覚を持っている。

嘘の進化