ステルス性 Ⅱ【前半】電波ステルス 原理 レーダー反射断…

 

兵器種によるステルスの差

B-2 スピリット 三面図

戦闘の際に相手のセンサー類に捕捉され難いという事は、それだけ相手より優位に立てる事を示している。その為、現在において各国のステルスへの注目度は高く、今後もステルス性を考慮した各種の兵器が開発されていくと思われる。

一般的に軍用機は敵に発見された場合のリスクが比較的大きく、それを最小化できるステルス技術が重視されている。軍艦等では堪航性に支障が出ない程度のステルス性を持たせているものが多い。戦闘車両に対して空中からのレーダーによる探知が始まってはいるが、今のところはまだ限定的なためや地上車両に対するそれほど有効な技術が存在しないために、電波に対するステルス性はあまり考慮されてはいない。多くは目視に対するカムフラージュや赤外線への対策を行っている程度である。

JSF F-35 ライトニングII 一定の形状は良好なステルス性をもたらす

形状制御技術

形状制御技術はステルス性を求める兵器にとって重要である。

以下の形状はレーダー断面積を増大させる。形状制御技術は兵器の外面にこれらの形状が露出するのを避ける。

  • 機体形状における平面のほぼ全てについて、平面電波の飛来方向に垂直となる様に角度を統一(平面整列(Planform Alignment))
  • 二面や三面で構成される直角凹面(コーナーリフレクタ形状)
  • 電波の飛来方向に対してレーダー波の半波長の整数倍の長さを持つ物体
  • 鋭角な構造物

艦船ならば、上部構造物の外面や艦舷を単純平面で構成しこれを垂直方向から斜めに傾けることで、多くの場合に水平方向から放射されるレーダー波に対してその反射波を同じ水平には戻さない。アンテナ・マストにはAEM/S(先進型閉囲マスト/センサー,Advanced Enclosed Mast/Sensor)と呼ばれる単純平面で構成されたFSS機能を備えた覆いを被せる。などの工夫を行っている。

F-35のETOS後部の前脚格納部

軍用機では、主に正面下方からRCSに注意を払い、側面方向にも気を配っている。元々流線型の機体であるため、正面からのRCSは比較的良好であるが、ジェットエンジン吸気口からコンプレッサーのファンブレードが見える場合は、吸入流路を延長湾曲して隠したり、斜めに取り付けたメッシュやグリッド状の部品によって電波反射を抑える必要がある。

自機のアンテナを覆う機首レドームにFSS機能つまり電波の選択透過性を備えた遮蔽材を使用する。戦闘機攻撃機なども機外に搭載するものがある場合にはRCSが悪化するので、出来るだけ機内への収容が求められる。

側方への配慮として、垂直尾翼を斜めに傾けるか備えないで済ます。機体側面は主翼付け根から機首まで水平方向への張り出しを付けるか、全翼機として胴体側面から垂直面を排除するなどの工夫を行っている。

また反射波を全て同じ方向に返すため、上から見ると機体の主翼、水平尾翼、エンジン前縁の角度を同一とし、正面から見ると、垂直尾翼とエンジン側面の角度が同一とする工夫が行われている(F-22の三面図参照)。

波長によるレーダー電波の無効化
レーダー波の一部は反射体(または電波吸収体)の表面で反射され、一部は内部に浸透して裏面で反射される。反射体の厚みがレーダー波の1/4波長の時は内部に浸透した波が往復の距離分、つまり「1/4+1/4=1/2=半波長」の分だけ遅れて表面からの反射波に重なるため、干渉し互いに打ち消し合う[2]

流体工学ノズル
流体工学ノズル(fluidic nozzle)を使用したベクトル・スラスター・ノズルも構造が単純化されている分、ステルス性の向上に寄与するため、今後の実用化が検討されている。
キャノピー
コックピット・キャノピーにもレーダー波を反射する薄膜によってコートされている。材質は蒸着金薄膜やインジウムとスズの酸化物(In2O3とSnO2の混合物)による薄膜が用いられる。 このためほとんどのレーダー波はキャノピー表面で反射され、操縦席付近の複雑な形状の電子機器や機体内部面によって生じる乱雑な反射波は最小限に抑えられる。パイロットのヘルメットの電波反射の低減も検討されている。
プラズマ・アンテナ
プラズマを使ったアンテナである。
プラズマ・アンテナではガラス管などに封入した希薄ガスに電波周波数で放電電圧を印加して放電を起こさせる。このプラズマがそのままアンテナとなり電波が放射される。電圧の印加を停止すればプラズマはガスに戻り電波の放射は停止される。プラズマ・アンテナは放射器としてだけでなく、反射器としても機能する。また入射電波の受信も可能であるとされる[3]

ステルス性の観点では対象物の大きさも影響する。Xバンド(8-12GHz)では波長3cm以上であるが、Cバンド(4-8GHz)やSバンド(2-4GHz)での対象物の部分的な長さがレーダーの波長と共鳴することも考慮される[1]。また反対に1/4波長の厚みを持った電波吸収体に入射したレーダー波は表面と裏面の2ヶ所からの反射によって互いに打ち消しあって、上手くすれば消滅する[2][2]

電波吸収体技術

電波吸収体技術は形状制御技術ではコントロールしきれなかった鋭角などに、電波吸収体または電波吸収材料(Radar absorbent material、RAM)と呼ばれる物質を使って電波を吸収し反射波を減らす技術である。電波吸収材料は大きく3つに分かれる。

  • 導電性電波吸収材料は材料内部の抵抗によって電波によって発生する電流を吸収するものである。導電性繊維の織物によって優れた電波吸収体が実用化されている。
  • 誘電性電波吸収材料は分子の分極反応に起因する誘電損失を利用するが、誘電体単体では大きな損失は望めないので、カーボン粉などをゴム、発泡ウレタン、発泡ポリスチロールなどの誘電体に混合して見かけ上の誘電損失を大きくしたものが開発されている。
  • 磁性電波吸収材料は磁性材料の磁気損失によって電波を吸収するものである。鉄、ニッケル、フェライトを使用して電波を吸収できるが、重くなるのが欠点である。

また、使用する形態によっても電波吸収体は分けられる。

  • 構造材型は構造材自身に電波吸収体の機能を持たせた、2つの機能を兼ね備えた部材を使用する技術であり、構造が単純で軽量化できるので実用化されつつある。
  • 貼付型は外面に電波吸収体を貼り付ける形態であり、ゴムシート状のフェライトやカーボンが使用される。電波暗室では発泡スチロールが使われる。重量が増す。
  • 塗装型は外面に電波吸収体を塗装する形態であり、厚さを一定にするのが困難なため対象周波数に対する精度が保てない点や、厚く塗る必要があることからはがれ易い点に問題がある[1]

電波吸収体は、電波特性、角度特性、偏波特性、付加特性(重量、耐熱性、耐候性、施工性、価格など)の特性が考慮される。カーボンマイクロコイル(CMC)を使用することで幅広い帯域に対する電波吸収が実現出来る。コイル径が1-10μm、長さは0.2-10mm程度で、ポリウレタンのような支持基材中に添加量が1wt%-1.5wt%が-15dB以上の最も効率的な吸収を示す。

また、EMファイバーと呼ばれる、ガラス繊維や合繊繊維中に吸収する波長の2倍の長さのステンレス繊維を分散させた電波吸収材がある。電波吸収体は、インピーダンスの異なるいくつかの層を重ねることで、入射電波を逃がさないようにできる。入射側は低インピーダンスとして、内部深くに電波が進むにつれてインピーダンスを高くし、電波の反射を抑えながら効果的に吸収・消滅させることが図れる。

誘電性の吸収材料を使用して{\displaystyle {\frac {\lambda }{4}}}の厚みを持たせると、誘電率{\displaystyle {\boldsymbol {\epsilon }}_{\gamma }}に対して{\displaystyle {\frac {\lambda }{\sqrt {4{\boldsymbol {\epsilon }}_{\gamma }}}}}に減らすことが出来る[4]

RAM

今のところRAMの塗装型は高価であるという点やメンテナンスに手間が掛かるという点で問題がある。一部には、赤外線放射率が異なる塗装で各部を塗り分け、赤外線映像として見た際に、航空機の形状として認識されづらいように配慮した機種もある。

現在実用化されているステルス航空機の機体色は、マットブラックかダークグレー系が大勢を占める。これは夜間運用時に効果的であると同時に、極端に高度を下げない限り日中でも比較的目立たない色であることが、その理由として挙げられる。そのため、現在ではレーダー反射塗料を使うと、必ずしもその原色であるダーク系カラーになってしまうという訳ではない。

なお航空機に高度なステルス性を持たせる場合、やはり機体をステルス性の高い形状にしなければならないが、航空機の場合、単純に「ステルス性に優れる形状」であれば良い訳では無く、同時に「良好な飛行が可能な形状」すなわち航空工学に基づいた形状も求められる。それらを両立する為に、設計には非常に複雑な計算を必要とする。また、開発・生産・維持のいずれの段階においても、高技術力と高コストの両方が要求される。特に維持は困難で、飛行中に霧や霜や埃が機体に付着したり、ビスの締めが甘く頭が少し表面から浮いただけでも、ステルス性は損なわれるといわれている(例えばB-2爆撃機の場合、一機あたりの価格が高い上に、整備には専用の格納庫を必要とする。国外の基地へ展開する場合、専用格納庫も一緒に展開する必要がある。それらの影響だけが原因では無いが、総生産数は当初の予定を下回る21機にとどまっている)。したがって費用対効果も悪くなりがちである。その為、技術力が追い付かない、あまりコストを割けない等の理由で形状の工夫が出来ない場合は、RAMを使用する等して、少しでもステルス性の改善を求めることも多い。

艦船や車両では、運用上の理由(RAM塗料は劣化が早く長期間の野外活動に耐えられない、陸上兵器は少しでもカムフラージュを行えばレーダーには元々映りにくい等)から、高価なRAMは使用せず、外観の形状に配慮をする程度である。

F-117

F-117のステルス性は、その機体構造(概観の形状)からレーダ入射波を散乱及び後方背面波としてRCS(レーダー断面積)を下げているものと考えられる。この機体のステルスの特徴としては、レーダに対するRCS低減は全方位でなく前方方向と背面方向に対してRCSが極端に小さい。また運動性を犠牲にしているがステルス機の中ではRCSが最も小さい機体と考えられている。

航空機の電波ステルスの歴史

ステルス機」を参照

赤外線ステルス

サイドワインダー・ミサイルのように飛行中の航空機が放つ赤外線を捕らえて自動追尾する対空ミサイルが多い。高空では周囲や背景の温度が低いため、パッシブ式赤外線画像装置で航空機自体の画像を捉えることもそれほど難しくない。これらパッシブ式赤外線センサーを備えるミサイルに対する最も単純で有効な対策は、自らの赤外線放射量を減らすことである。以下に航空機での赤外線でのステルス技術について示す。

赤外線放射抑制

一般に航空機は赤外線誘導ミサイルによって攻撃を受けることが多く、特にヘリコプターは低空を比較的低速で飛行するために最も危険である。自機からの赤外線放射による被発見性を低減するためには、高温で排気される燃焼済みガスを出来るだけ早く周辺大気に拡散させて温度を下げることや、高温となった排気ノズルなどを周囲に曝さない工夫が必要とされる。

固定翼航空機
排気ノズルを尾翼部で囲んで出来るだけ曝さない(A-10サンダーボルトIIF-22ラプターF-35ライトニングII)
主翼上面部に排気することで下方からの赤外線探知を困難にする(B-2スピリットYF-23ブラックウィドウII)
ジェットエンジンのバイパス比を高めて、燃焼に寄与しない空気量を増やすことで排気時の温度を下げる。
ヘリコプター
排気ノズルを周囲に出来るだけ曝さない
積極的に排気ガスを機体周辺の下降流に拡散させる工夫を備える(AH-64アパッチ)
テールブーム内に排気ガスを送りローターの代わりのノーターとして使うことで、テールブーム内での冷却と機体後部での早い拡散が行える

赤外線迷彩

航空機自体の画像を捉えて画像認識を行うミサイル・シーカーに対しては、赤外線反射率が異なる塗料を機体に塗布し、航空機としての形状の検出を困難にする。

フレア赤外線レーザーの照射といったステルス以外の技術(「ソフトキル」と呼ばれる)は本項目では扱わない。それぞれの項目を参照されたい。

光学ステルス