ゲーム理論 ⅩⅣ【末】東京工業大学における社会工学科の発足…
繰り返しゲーム理論への貢献
「繰り返しゲーム」も参照
1990年代以降に日本人経済学者が特に活躍した分野として繰り返しゲーム理論の理論が挙げられる。特に神取道宏(東京大学)が1990年代から2000年代にかけて発表した一群の研究は国際的に高く評価され[378]、サーベイ論文は繰り返しゲームを概観した標準的な資料としてノーベル賞選考委員会からも引用されている[379]。また、私的観測下(英: with private monitoring)における繰り返しゲームの均衡は完全観測や公的観測のケースに比べて均衡を発見するのが格段に難しくそれ自体が長い間有名な未解決問題として残っていたが、1998年に当時東京大学の大学院生であった関口格がそれを解決している[380]。この他にも松島斉(東京大学)がシグナルの精度が低い場合のフォーク定理を証明する等、繰り返しゲームにおいて幾つかの重要な貢献をしており国際的にも高く評価されている[322][381]。また、金子守(当時筑波大学)と松井彰彦(東京大学)は共著論文Kaneko & Matsui 1999において限定合理的なプレイヤーを仮定した繰り返しゲームへの新しいアプローチである"inductive game theory"を提唱した[382]。 均衡点選択の理論では、梶井厚志(京都大学)がモリスとの共同研究[383]によって情報頑健性というアプローチを確立し、国際的に高い評価を受けた[384]。完全均衡点はプレイヤーの合理性の微小な不完全性を想定するが、プレイヤーの知識の不完全性は考慮しない。これに対し、梶井らによる頑健均衡はプレイヤーのもつ知識構造のわずかな不完全性に対して安定な均衡である。Kajii & Morris 1997はリスク支配と関連するp-支配均衡の概念を提示し、p-支配均衡が情報頑健性を満たすことを証明した[385]。
ゲーム理論ワークショップの定例化
京都大学吉田キャンパスの正門。第1回ゲーム理論ワークショップは京都大学芝蘭会館で開催された[386]。
2004年3月8日から3月10日までの三日間、京都大学経済研究所のゲーム理論グループ(岡田章、今井晴雄、梶井厚志、関口格)を主宰として第一回ゲーム理論ワークショップが開催された。2004年以降、ゲーム理論ワークショップは日本国内の大学[† 62]で毎年3月に三日間に渡って開催されることが定例化している[387][386]。 ゲーム理論ワークショップは2004年の初開催から岡田章が強いリーダーシップを発揮しており、開催会場も全て岡田の交渉によって決定されている。21世紀COEプログラム等の大型科研費の援助を受けたこともあるが、それらも全て岡田を代表者とする事業として採択されたものであった[387]。
特に一橋大学で開催された第二回ゲーム理論ワークショップ(2005年)に数理生物学の大家である巌佐庸(九州大学)がプログラム委員に加わったことが契機となり、それ以降生物学、政治学、計算機科学など経済学以外のさまざまな分野の研究者が参加するようになり学際交流も盛んになっている。初回の2004年には40名程度だった参加者も2015年には108名まで増加している[387]。
マーケットデザインの実用化
国際的な学界においては2000年代以降「マーケットデザイン」と呼ばれる分野が急速に発達し、20世紀に蓄積したゲーム理論の知見が現実のさまざまな問題を解決するための制度設計として実用化されていったが、日本では各分野において実用化に対して消極的であり、先進諸国に比較しても導入が遅れている[388]。中でも特に、通信事業の免許を販売する周波数オークションは多くの国で既に導入されて数兆円規模の収益を上げているが、日本では未だに導入されていない[195]。日本において周波数オークションが導入されない理由として、池田信夫はテレビ局や携帯電話会社と総務省官僚の癒着を挙げている[199]。
また、ドナー・レシピエント間のABO式血液型不適合、リンパ球クロスマッチ陽性、HLAの完全不適合などが存在する場合にドナーを交換することによってこれらの問題を解決して相互の移植を実現することを目的としたドナー交換腎移植が米国や韓国などで既に導入されているが、日本移植学会は「しかし、ドナー交換腎移植は医学的・倫理的に大きな問題を含むものであり、個別の事例として各施設の倫理審査のもとに行われるべきものである。したがって、ドナー交換ネットワークなどの『社会的なシステム』によりドナー交換腎移植を推進すべきものではない。」という否定的な見解を示しており、日本ではドナー交換腎移植が行われていない[389]。
日本で実用化された数少ない分野のひとつとして研修医マッチングが挙げられる。アメリカで大きな成功を収めていた受入保留方式(英: deferred acceptance algorithm)を用いた研修医マッチングが2004年度から日本においても導入された[390]。導入当初は研修医の希望を尊重して配属病院を決定するマッチング方式が医師の地方偏在を悪化させてしまうという問題が指摘されたが、鎌田雄一郎と小島武仁の研究によって理論的な解決策が示されている[388]。
略年表