ESCO事業(Energy Service Company…

 

 

ESCO事業が広まらなかった理由

当初、日本国内におけるESCO事業の「潜在的市場規模」は2兆円以上にのぼるとされたが[22]、 実際のESCO事業 (パフォーマンス契約) の市場規模は最盛期においても年間2~300億円程度であり[8]、その後ブームは衰退することとなった。

気候変動に関する政府間パネル (IPCC) メンバーの杉山らは、ESCOの役割が当初の期待よりも限定的なものにとどまったことについて、以下の理由を挙げている[23]

  • 省エネルギーは原資として少なすぎるため、ESCOがビジネスとして成り立たたなかった。
  • 設備導入というハード面の対策に偏り、運用改善などのソフト面の提案が対象になりにくかった。これは、ソフト改善についてのパフォーマンス契約が、ベースライン[5]の引き方などで意見が分かれるために、実務上の取り決めをしにくいことによる。
  • あまり効果のない設備を売り込んで、後で苦情が出るなど、ESCOが顧客の信頼を得られなかった。

一方、ESCO事業者からよく挙げられる「日本では『サービス』に対価を支払う習慣がない」という意見については、投薬を伴わなくても診療費が支払われる医療サービスを例にとって否定している。

なお、省エネルギーセンターや新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 等の公的機関が行っている無料の省エネルギー診断事業を「ESCOビジネスの圧迫になる」とする意見もあるが、 諸外国においても公的な省エネルギー診断事業は多く実施されており、米国においてもエネルギー省 (DOE) による無料診断事業が行われている[24]

日本のESCO事業者

日本においては、ESCO事業を行うための登録、申請などの制度は特に定められておらず、ESCO事業のスキームを理解し、それを実施可能な企業であればESCO事業者を名乗って差し支えない状況である[25]

したがって、日本におけるESCO事業者の正確な数は不明である。

業界団体としては、ESCO・エネルギーマネジメント推進協議会[26]が存在しており、2006年4月時点での企業会員数は138社 (特別会員を除く) であったが、ESCOブームの終焉とともに撤退する事業者が相次いでおり、2016年9月までに76社に減少している[27]。 ただし、ESCO事業者がすべて同協議会の会員になる必要があるわけではない。 また、同協議会によると、実際にパフォーマンス契約の実績がある会員企業は2004年度までの累積で52社であった[28]

米国における状況と同様、日本のESCO事業者も、公益事業者 (電力ガス会社等) の子会社関連会社、機器メーカー・設備工事業者、独立系ESCO事業者などに分類される。

多くの事業者にとっては、制御・計測機器の製造・販売、あるいは設備工事などの本業があり、ESCO事業はそのための営業手法の一つという位置づけである。 したがって、顧客がESCO事業に関心を示さない場合には、他の手法による省エネリニューアル工事を提案・受注することとなる。

また、かつてESCO専業と見られていた独立系ESCO事業者も、ESCO市場の枯渇に伴い特定規模電気事業 (PPS) に進出するなど、隣接する他のエネルギービジネスにその軸足を移している。

そのため、現在では、専業のESCO事業者はほぼなくなっており、参入各社ともESCO事業のスキームにとらわれることなく、幅広く省エネサービス事業を展開する方針となっている[29]