ヨーガⅠ【目次/概説】

 

「ヨーガ」という言葉

ヨーガ (योग) は、「牛馬にくびきをつけて車につなぐ」という意味の動詞根√yuj(ユジュ)から派生した名詞で、「結びつける」という意味もある[5]。つまり語源的に見ると、牛馬を御するように心身を制御するということを示唆している。『ヨーガ・スートラ』は「ヨーガとは心の作用のニローダである」(第1章2節)と定義している[16](ニローダは静止、制御の意[17])。森本達雄によると、それは、実践者がすすんで森林樹下の閑静な場所に座し、牛馬に軛をかけて奔放な動きをコントロールするように、自らの感覚器官を制御し、瞑想によって精神を集中する(結びつける)ことを通じて「(日常的な)心の作用を止滅する」ことを意味する[5]

ヨーギニー女神の像、10世紀

日本では一般に「ヨガ」という名で知られているが、サンスクリットでは「यो」(ヨー)の字は常に長母音なので「ヨーガ」と発音される[† 3]仏教においては元のサンスクリットを漢字で音写して「瑜伽」(ゆが)と呼ぶか、あるいは意訳して「相応」とも呼ぶ(詳細は瑜伽の項参照)。

ヨーガの行者は日本では一般にヨーギーまたはヨギと呼ばれるが、ヨーガ行者を指すサンスクリットの名詞語幹は男性名詞としてはヨーギン (योगिन्)、女性名詞としてはヨーギニー (योगिनी) であり、ヨーギーはヨーギンの単数主格形(日本語にすると「一人の男性行者は」)に当たる[18]。現代日本ではヨーガを行う女性を俗にヨギーニと呼ぶことがあるが、前述のようにサンスクリットでは「ヨー」は常に長母音なので、女性名詞はヨーギニー (yoginī) であってヨギーニではない[19]。ヨギーニは英語読みに由来する発音だと説明する本もあるが[20]、英語の発音は /'joʊgəni/ (ヨウギニ)または /'joʊgəniː/ (ヨウギニー)である。

修行者は男性であった。タントリズムの性的ヨーガにおいて男性行者の相手となった女性はヨーギニーと呼ばれた。南インドで、親が娘を神殿や神(デーヴァ)に嫁がせる宗教上の風習デーヴァダーシー(神の召使い)の対象となった女性もヨーギニーと呼ばれた[28]。彼女たちは伝統舞踊を伝承する巫女であり[29]神聖娼婦、上位カーストのための娼婦であった(1988年まで合法であった[28])。20世紀インドの女性ヨーガ行者としてはアーナンダ・マイー・マー英語版)が有名である[31]

歴史

原始ヨーガ

紀元前2500-1500年頃の彫像

明確な起源は定かではないが、紀元前2500年-1800年のインダス文明に、その遠い起源をもつ可能性が指摘されている。同文明の都市遺跡のモヘンジョ・ダロからは、坐法を組み瞑想する神像や、様々なポーズをとる陶器製の小さな像などが見つかっている。

ヨーガという語が見出される最も古い書物は、紀元前800年-紀元前500年の「古ウパニシャッド初期」に成立した『タイッティリーヤ・ウパニシャッド』である。また、紀元前350年-紀元前300年頃に成立したとされる『カタ・ウパニシャッド』にはヨーガの最古の説明がある。

感官の確かな制御がヨーガである (『カタ・ウパニシャッド』6-11)

古典ヨーガ

詳細は「ヨーガ学派」を参照

パタンジャリの典型的な像

2世紀-4世紀ごろ、その実践方法が『ヨーガ・スートラ』としてまとめられ、解脱への実践方法として体系づけられた。編纂者はパタンジャリとされるが、彼のことはよくわかっていない。同書を根本教典として「ヨーガ学派」が成立した。同派は、ダルシャナ(インド哲学)のうちシャド・ダルシャナ(六派哲学)の1つに位置づけられている。

ヨーガ学派の世界観・形而上学は、大部分をサーンキヤ学派に依拠しているが、ヨーガ学派では最高神イーシュヴァラの存在を認める点が異なっている[2]。内容としては主に観想法(瞑想)によるヨーガ、静的なヨーガであり、それゆえ「ラージャ・ヨーガ」(=王・ヨーガ)と呼ばれている。その方法はアシュターンガ・ヨーガ(八階梯のヨーガ)と言われ、ヤマ(禁戒)、ニヤマ(勧戒)、アーサナ(座法)、プラーナーヤーマ(調気法、呼吸法を伴ったプラーナ調御)、プラティヤーハーラ(制感、感覚制御)、ダーラナー(精神集中)、ディヤーナ(瞑想、静慮)、サマーディ(三昧)の8つの段階で構成される[32][33]。 『ヨーガ・スートラ』では、ヨーガを次のように定義している。

ヨーガとは心素の働きを止滅することである (『ヨーガ・スートラ』1-2)
その時、純粋観照者たる真我は、自己本来の姿にとどまることになる (『ヨーガ・スートラ』1-3)[33]

後期ヨーガ

詳細は「ハタ・ヨーガ」を参照

12世紀-13世紀には、タントラ的な身体観を基礎として、動的なヨーガが出現した。これはハタ・ヨーガ(力〔ちから〕ヨーガ)と呼ばれている。内容としては印相(ムドラー)や調気法(プラーナーヤーマ)などを重視し、超能力や三昧を追求する傾向もある。教典としては『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』、『ゲーランダ・サンヒター』、『シヴァ・サンヒター』がある。

ヴィヴェーカーナンダ

他に後期ヨーガの流派としては、古典ヨーガの流れを汲むラージャ・ヨーガ、社会生活を通じて解脱を目指すカルマ・ヨーガ(行為の道)、人格神への献身を説くバクティ・ヨーガ(信愛の道)、哲学的なジュニャーナ・ヨーガ(知識の道)があるとされる[34]。後三者は19世紀末にヴィヴェーカーナンダによって『バガヴァッド・ギーター』の三つのヨーガとして提示された[35]

近現代

ハタ・ヨーガ#現代のハタ・ヨーガ」も参照

19世紀後半から20世紀前半に発達した西洋の身体鍛錬英語版)運動に由来するさまざまなポーズ(アーサナ)が、インド独自のものとして「ハタ・ヨーガ」の名によって体系化され、このヨーガ体操が近現代のヨーガのベースとなった。現在、世界中に普及しているヨーガは、この新しい「現代のハタ・ヨーガ」である。現代ヨーガの立役者のひとりであるティルマライ・クリシュナマチャーリヤ英語版)(1888年 - 1989年)も、西洋式体操を取り入れてハタ・ヨーガの技法としてアレンジした[8][† 6]。 科学的な研究は1920年代にインドマハーラーシュトラ州ロナワラ市に設立されたカイヴァルヤダーマ・ヨーガ研究所で開始され、インド中央政府はその後、8校の「ヨーガと自然療法医科大学」をはじめ30校を超える大学にヨーガ学科を設置してきている。その内の1つであるスワーミー・ヴィヴェーカーナンダ研究財団の教育部門は、インド中央政府人的資源管理省より2002年5月にヨーガ大学院大学として認定を受け、修士号博士号を発行している。2014年にはインド政府にヨーガ・アーユルヴェーダ省が設けられ、国連によって2015年より、毎年6月21日が国際ヨーガの日(国際ヨガデー)と制定された。また、インド政府が正式に公認するヨーガ検定[36]も2015年より始まり、全世界的なヨーガの広がりにインド政府が中心的な役割を担う体制作りが始まっている。[要出典]

2016年、ユネスコが推進する無形文化遺産にインド申請枠で登録された[37]

日本の状況

最初に瑜伽として日本にヨーガが伝わったのは、大同元年(806年)、より帰国した空海にまでさかのぼる。その後、真言宗や天台宗の「阿字観」等の密教行法として、現在に伝わっている。禅宗でいうは仏教の代表的な修行のひとつ「禅定」であるが、その原語はディヤーナ(禅那)で、ヨーガ・スートラ第2章に記述されるディヤーナと同語である。

現在巷で流行している健康法としてのヨーガは昭和時代に伝播した。19世紀末にアメリカにヨーガが紹介され、ヴィヴェーカーナンダ(1863年 - 1902年)やパラマハンサ・ヨーガーナンダ(1893年 - 1952年)などのグルが知られた。ただ、自称インド人も多く、日本に影響のあったヨーガは、戦前はアメリカ白人のものが中心だった[38]。日本のヨーガは、ヨーガを導入した宗教団体オウム真理教による一連の事件の影響で、一時下火になった。

だが2004年頃から健康ヨーガは再びブームとなり、ダイエット方法の1つとしてテレビで紹介されたり、CMで使用されることが増えた。フィットネスクラブなどでは、エアロビクスと同じようなスタジオプログラムの1つとして行なわれている。この流行は戦前同様インドから直接流入したものではなく、アメリカ、特にニューヨークハリウッドでの流行が影響したものと考えられ、近年では同流行がインドへ逆輸入されている。なお、伝統的ヨーガ系のグループには現在でも、イニシエーションを行なうなど宗教団体的側面を持つものもある。

2015年、インド政府が主導して国連が制定した国際ヨガデー(6月21日)では、日本各地でもイベントが開催されている。また、2016年よりインド政府認可のヨガ検定が一般社団法人全日本ヨガ連盟によって実施される。[要出典]

内容

6つのチャクラの図、18世紀

主たる座法はパドマ・アーサナ(蓮華坐)である(結跏趺坐に相当)。

ヨーガは実践上、インド古来のチャクラ理論に依拠している。

人体内に大きな6または7つのチャクラ(चक्र、輪、車輪)と小さなチャクラがありそれを目覚めさせれば、またはクンダリニーを体内の脊椎にそって上昇させると悟りがひらけると一部の人たちは言うが、全くそういうことはない。実際は、タイティリーヤ・ウパニシャッドで説明される、生気レベル(プラーナーマヤ・コーシャ)の覚醒にすぎず、修行の「入り口」に立ったにすぎない。また、生気レベルの覚醒それ自体は霊格の向上をもたらさず、あくまでもカルマ・ヨーガの実践や世俗との係わりの中での人格の向上や、その他のヨーガを「総合的」に実践することにより、霊格は向上していくものと心得るべきである。[独自研究?]

7つのチャクラ

詳細は「チャクラ」を参照

  1. ムーラーダーラ (मूलाधार)
  2. スワーディシュターナ (स्वाधिष्ठान)
  3. マニプーラ (मणिपूर)
  4. アナーハタ (अनाहत)
  5. ヴィシュッダ (विशुद्ध)
  6. アージュニャー (आज्ञा)
  7. サハスラーラ (सहस्रार)