三田一族の意地を見よ    作者:三田弾正

第貳章 小田原編  << 前の話 次の話 >>  8/115  第捌話 食生活を豊かにしよう

 

硝酸が出来れば、火薬生産に非常に増長性が出てくるんだが、問題は製造道具から作成しないと駄目と言う事で、蒸留や乾留するランビキも必要だし、まずはガラス細工を出来る様に陶器職人を廻して貰わないとだし、結構遠回りしていかないと駄目だ。

ガラス器だけでなく陶器自体も磁器や釉薬を懸けた水が漏れないものを制作しなければ成らないし、それさえ出来れば磁器や釉薬陶器やガラス器で商売が出来るから、幻庵爺さんも反対しないはず。実験道具が出来たら早速火薬の作成なんだが、問題が多数有るんだよな。

綿火薬自体の製造法は知っているんだが、ハッキリ言って現在の状態では実験程度の量なら生産可能だが、大量生産は無理であると考えた。何故なら綿セルロースを硝化する事で綿火薬、所謂無煙火薬が出来るのだが、製造には清潔な水で数十時間、酸を洗わなければ成らないからで、綿火薬自体に金属粉が混入した場合、異常爆発を起こしかねない。現在の流水は川の水である為、不純物が多数混ざるのは避けられないからだ。

後装式小銃の量産は現在の生産力ではほぼ無理、試作程度なら後装式小銃自体は作ろうと思えば出来るんだが、最大の問題は、金属薬莢がプレス機械の関係で無理。水車動力で単純なプレスなら出来るかも知れないが、リムを作る様な絞り型プレスなんぞ出来る訳が無い。

フライス盤、ターレット旋盤とかは、水車動力で動かせるんだが、構造は流石に知らないし、試行錯誤で制作するにしても1人じゃ無理だし、どうしても即在の技術を最大限に使うしかない。鉄砲鍛冶の大量養成をするのが一番なんだが、此は北條家を強めるだけだし、非常に迷う状態だ。

前にも考えたが、ライフル自体は既にヨーロッパで15世紀半ばに作成はされているから、その技術を入れられれば、旋条を入れることも可能だろうが、日本までその技術が流入してないから、自力で作成するしかない。

水車動力で銃身の刳り貫きしようにも、鍛造の鉄塊がないから無理。鉄もこの時代では溶解するのが非常に難しいので、やはり青銅で型鋳造するしか無いんだよ。頭の中には設計図が出来ているから。機関部や銃身やボルト部分ごとに砂型、石膏型、金属型を使い分けて製造すれば、この時代としては画期的な歩兵銃が出来るはずなんだ。

ただ真鍮薬莢のみが製造不能というジレンマ。そうなるとプロイセンのドライセかフランスのシャスポーのような紙薬莢に雷管張り付けたものにすれば良いんだけど、ボルトに激発装置を付けるのが、これまた難しい。一応原理は知っているが、知っていると作れるのは別だから、それに手先の器用な職人にどう伝えれば納得して貰えるかも問題だよ。

雷管も雷汞である雷化水銀は愛読書だった武器って言う本の知識から、硝酸+水銀+アルコールと判っているし、それに近い爆薬で硝酸メチルなら、木炭作るときに出る木酢酸を蒸留して出来るメタノールを硝酸と混ぜ、乾留すれば出来るから、以外に雷管は早くできそうな感じに成って居るんだが、所詮は畳の上の水練だから、どうなるか判らない。

まあ無煙火薬は無理でも黒色火薬より燃焼速度が遅くてライフルリング銃に合っている褐色火薬なら直ぐ作れるけどね。木が完全に炭化して黒くならないうちに焼き止めて作った褐色木炭18%、硝石を79%、硫黄を3%混ぜれば良いだけだ。

 

千歯扱きと綿繰り機は幻庵爺さんに見せたら、早速量産が始まり、今年の収穫から使うって事です。ついでに義倉も指摘したら、粟稗蕎麦などの雑穀なら可能だと言う事でやってみることが決まったようです。此で農民が飢饉で飢えることが無くなると良いよな。

 

 

「志摩さん、小麦粉で塩を入れない太い平麺をうって、寝かせないでいいから」
「寝かせないと、腰がでないですよ?」
「煮込むんので、そのままで良いんだ」

「判りましたよ」
流石、お志摩さん、テキパキと下女達に指示して麺を作っていく。
「汁は煮干しと椎茸で出汁取った後に、豆味噌を溶かして、それに南瓜を切って入れて」

「南瓜ですね、余四郎さんが、最近作ったんですよね」
「そうそう、南蛮から来た野菜だからね」
「煮物には良い甘みでしたね」

「汁に甘みが出るんだよ」
「判りました」

「煮えたら、野菜を入れて」
「大根、アブラナ、里芋、蕪の葉、金時人参、牛蒡ですか?」
「そうそう、煮えにくい物から順次煮て、麺も入れてとろみを出して、猪肉を入れて煮えたら灰汁を取る。最後にネギを刻んで入れれば完成だよ」

乾燥野菜や室に入れていた野菜もあるけど、カボチャは真っ先に江戸湊の商人に頼んで手に入れたから、まあ東洋カボチャだけど、人参も金時人参だし、白菜がないから代わりに菜の花を使う。

椎茸はこの時代は栽培できないので大変高価だが、以前作った寒天で椎茸の胞子を育て、それを大鋸屑と米糠と貝殻粉とかを混ぜた菌床で育成中。何れ養殖椎茸が出来るかも知れない。

 

「この前の蒲鉾は旨かったぞ、刺身に向かないイシモチやサメ、膠の材料のニベの身を磨り潰して蒲鉾の材料に使うとは考えたものだと、城下じゃ評判だぞ。今じゃ蒲鉾屋が出来たぐらいだ」

 

「麺か、ウトムか蕎麦切りか?」
ウトムって饂飩の事なんだよな。未だ饂飩と呼ばれてないから。因みに蕎麦も先取りで考案してしまったので、信州蕎麦が蕎麦第一号の栄冠から転げ落ちました。
「ウトムに近いですけど、腰がない麺を味噌で煮た物です」

「煮ウトムか、どんなもので有ろうか、楽しみだ」

 

あー!そうだ、商人に頼んで、南蛮や明の食物や植物をドンドン輸入させよう。旨く行けば

トマト、タマネギ、トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、夾竹桃とかが手に入るかも知れない。

そうだ、医薬品も増やさないと、焼酎を蒸留しまくって六十度ぐらいのアルコールにして消毒薬にして、マリ○ァナを痛み止めとして作り、海草からヨード取ってアルコールと混ぜれば、

インチキヨードチンキが出来るかも、まあ実験もしないとだ。

戦争となると兵糧も必要だな、甘酒の酵素でパンが作れるから、パンを作るのも良いし、

乾パンを開発するのも良いな。後は砂糖も必要か、サトウキビは此処では作れないが、

和三盆の原料の讃岐原産の在来品種竹糖ちくとう細黍ほそきび竹庶ちくちゃがあるから、それを持ってくれば下田辺りなら栽培が可能になるかも知れない。此も早急に始めないとだ。

それに貨幣の鋳造もした方が良いな、北條領國だけに通用する銅貨、銀貨、金貨を作って貨幣経済である貫高制から石高制に移行する流れを止めなければ成らないし、石高制のために農民が苦しむ可能性が出ているのだし、北條流の凶作時には減免する方式は為政者として素晴らしい方式だから、それを絶やさないで行きたい