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主に人件費の安さが狙いでもって海外へと進出して行く企業は、それなりのリスクを背負うことになり、駐留軍と同様、いかなる仕打ちを受けたとしてもやむをえないのです。その国のためにもなることなのだからという大義を大上段にかざしてみたところで、そこの国民を低賃金でこき使えるからという本心を隠しおおせるものではなく、雇われた従業員たちは生活の道を確保できた安堵感と同時に、歴史的な経過のせいもあって、本音としてはあまり好きではない外国人の命令に従う屈辱感をも併せ持っているのです。
そんな古い話を今更持ち出されても困るし、迷惑だと主張するのは、いじめた側の論理であって、厭というほどいじめられた側はそう簡単には過去を忘れたりはしません。直接関係のないことから生まれた不満であっても、それが煮詰まってくるたびに怒りの矛先としてその国のことが心頭に浮かび、とりあえずは進出企業や大使館などが標的にされ、破壊行為という手段でもって、束の間、溜飲を下げるのです。
それにしても、さまざまな企業があのような形で海外へどっと進出する必要が本当にあったのでしょうか。国内にとどまっていたのは競争相手に太刀打ちできなかったのでしょうか。あまりに安易な、あまりに性急な、あまりに目先の欲を優先した決断ではなかったのでしょうか。もしもかれらが国内に踏みとどまり、悪戦苦闘を強いられながらも、本気で知恵を絞り、地道な努力を積み重ねていたならば、そういうことにはならなかったのではないでしょうか。そして、国内の労働者が夢喪失の自暴自棄へと追いこまれるようなことにはならなかった可能性があるかもしれません。甘い考えではあっても、結果としてはそのほうがよかったのでは……。