中国との関連
日本では、中国に関する日本のマスコミの報道についてよく偏向報道が指摘される。そしてその偏向の原因が日中記者交換協定にあるとも指摘される。
1968年3月の「日中覚書貿易会談コミュニケ」では、日中双方が遵守すべきとして「政治三原則」が明記された。これは、周恩来首相をはじめとする中華人民共和国政府が、従来から主張してきた日中交渉において前提とする要求で、以下の三項目からなる。
- 日本政府は中国を敵視してはならないこと。
- 米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀を弄しないこと(一つの中国論)。
- 中日両国関係が正常化の方向に発展するのを妨げないこと。
このうち項目2は、中華民国を正統の政府と認めないという意味である。以降、中華人民共和国政府の外務省報道局は、各社の報道内容をチェックして、「政治三原則」に抵触すると判断した場合には抗議を行い、さらには記者追放の処置もとった。記者交換協定の改定に先立つ1967年には、毎日新聞・産経新聞・西日本新聞の3社の記者が追放され、読売新聞と東京放送の記者は常駐資格を取り消された。
詳細は「日中記者交換協定」を参照このような日中記者交換協定は、しばしば日本のマスコミ報道に影響を残し、報道における中国政府におもねり、偏向、つまり偏向報道があると指摘される。事例としては南京大虐殺に関する朝日新聞の親中派・反日的な性格などが問題視されることがこれまでにあった。
2009年ウイグル騒乱に関する日本の報道において「暴動」と表記されたことについて世界ウイグル会議系日本ウイグル協会代表のイリハム・マハムティは「“暴動”というのは明らかに中国政府側に立った表現」だとし、「もし暴動という呼び方をするのであれば、日本のマスコミは現地に記者を派遣して徹底的に取材し、デモに参加したウイグル人たちが最初に暴力事件を起こしたという証拠を提示したうえでそう呼ぶべきでしょう。しかし実際には、現地でそんな詳細な調査・取材を行っている日本のマスコミは、テレビでも新聞でも一社もありません。にもかかわらずマスコミは、中国政府に都合の良い報道を毎日のように繰り返している」として痛烈に批判したうえで、そのような日本のマスコミの態度の原因を1964年に中国政府と日本の大手マスコミとの間で締結された日中記者交換協定にあるのではないかとし、同協定のなかには「(日本人の記者は)中国政府に不利な言動を行わない・台湾独立を肯定しない」という取り決めが含まれていると指摘している。
また、佐藤優も「暴動」表記は中国共産党・政府側の立場に基づく表現と指摘し、中立的な観点から「騒擾」や「事件」と表記すべきとしている。そのうえで、多くの新聞が当初「暴動」と報じた点を問題視しており、当初から「騒乱」と表記した『朝日新聞』に対しては「民族紛争に関する報道では、こういう細部への配慮が重要」と評価している。一方で、「暴動」と表記し続ける『産経新聞』に対して「なぜ中国当局と同じ『暴動』という表現を用いるのか?」と疑問を呈している。
日本で偏向報道として話題になる例
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同じ表現の自由が認められている国であっても、日本は欧米を中心とした各国の「明白かつ現在の危険」(clear and present danger)に対し「利益衡量」による「表現の規制」がされる。すなわち日本の場合、表現の責任は原則として表現者個人ではなく第三者、すなわちレフリーを担務するマスコミに帰属し、特に報道について重要な「真実性の判断」をするのは、欧米を中心とした各国の「報道受信者」すなわち個々の視聴者また読者などではなくマスコミである。このことから日本では、特に大きな利害関係の生じる報道内容で、それを報じるマスコミが、被報道者、報道受信者の双方から「偏向報道」としてしばしば叩かれる、およそ欧米を中心とした各国とは異なる特異な現象を生じている。すなわち「偏向報道」がしばしば大きく話題になるのは、表現の自由が認められている、いわゆる先進諸国中では概ね日本だけの現象である[1]。
以下、その日本で戦後、話題になった事例などを挙げるが、日本ではしばしば「偏向報道」が取り沙汰され、話題になるにもかかわらず、その根拠、すなわち根本の「何をもって明確に偏向報道とするのか?」が、あくまでも「考え方の範囲」にあり曖昧なままである。従っていずれの例も「偏向報道である」との統一見解が「完全中立なる第三者」などによって得られているわけではなく、それはまた不可能なことでもある。よってここに挙げる事例の全てが本稿読者の立場などにより「偏向的であると判断される可能性がある」あるいは「独自見解であると判断される可能性がある」また「偏向報道とは言えないと判断される可能性がある」ことに十分、留意されたい。
政治
- テレビ朝日は、1993年に行われた総選挙の期間中に、小沢一郎率いる新生党をはじめとした当時の野党(日本共産党は除く)による非自民政権樹立を促す報道と、当時の同局報道局長・椿貞良が日本民間放送連盟の会合でそれを正当化する旨の発言をした「椿事件」が起こり、椿局長が証人喚問される事態になった。
- 2000年夏頃より、当時の内閣総理大臣森喜朗がビル・クリントンに対して出鱈目な英語の挨拶を行ったと言う噂が一部マスメディア、著名人によって報じられる。事実は毎日新聞論説委員高畑昭男による作り話であり、森はこの捏造を批判している(詳細はWho are you ?捏造報道)。
- 2001年5月15日、当時の長野県知事・××による「脱・記者クラブ宣言」に地元の有力紙である信濃毎日新聞(信毎)が猛反発し、これ以後一貫して田中知事の政策を批判する報道が行われ続けた(参照:記者クラブ#長野県の「脱・記者クラブ宣言」)。
- TBSの情報番組『サンデーモーニング』の2003年11月2日放送分にて、東京都知事・石原慎太郎の「私は日韓合併(の歴史)を100%正当化するつもりはないが、(以下略)」という発言が、テロップによって「100%正当化するつもりだ」という正反対の表示で報道された(参照:石原発言捏造テロップ事件)。
- 朝日新聞は、2007年に行われた参議院議員選挙の前後、政策論争よりも当時の安倍内閣に対するバッシングに終始し、連日の様に「安倍首相 支持率低下」を紙面に踊らせていた。その後、安倍首相は内閣改造後の同年9月、自身の健康状態を理由に退陣した。朝日新聞はこれに因んだ、仕事も責任も放り投げてしまう行為を指す「アベする」という新語が流行していると報じたが、一部のネットユーザーからは、そのような語は流行していないとする指摘がなされ、逆に「アサヒる」という語が生まれるきっかけになった。
- 日刊ゲンダイは、以前より自民党を批判し、同紙が支持する小沢一郎を擁護する報道を行っていたが、小沢が民主党に所属していた2010年参院選期間中の7月1日より「もう一度民主党へ投票を」という見出しで民主党への投票を呼びかける記事を掲載している[10]。また、その他にも「今更『自民に投票』は時代おくれだ」(同6月30日付)、「民主党へ投票が最良の選択」(同6月29日付)、「迷わずに民主党へ投票しよう」(同7月3日付)など、一貫して民主党に肩入れする記事を掲載した。これに対し、自民党は大島理森幹事長名義で、中央選挙管理委員会に公職選挙法違反の疑いがあるとして質問状を提出した[11]。
一方的なバッシング・過度の肩入れ
- 産経新聞は、えひめ丸事故において、アメリカ政府およびアメリカ海軍を弁護擁護する主張を繰り返した。他にも日教組大会拒否問題をその社説『主張』で取り上げたのは他紙の5日後であり、記者が組合員にバッシングされた事まで記述していた。ただし、同事件の当事者であり当時の内閣総理大臣であった森喜朗はメディアによる偏向報道を重ねて批判しており、代表的な事例として、事件が起きた時点でゴルフ場にとどまったことをマスコミが批判した際、事件当時は冬であったにも関わらずテレビ各局が半年前の夏に撮影された箱根でのゴルフの姿を繰り返し放送したことなどを挙げている。
- 読売新聞は、1974年から1975年にかけて名人戦騒動を起こした。1961年から始まった旧・名人戦は14年間に渡って約2500万円に契約金が据えおかれたため、日本棋院は新たに1億円の契約金を提示した朝日新聞社に名人戦主催権を移すことを表明した。これを受けて読売新聞は「金目当て」「信義がない」と激しいバッシングをほぼ1年にわたって囲碁界全体に加え、裁判にまで発展した。1975年末に棋聖戦創設という形で決着したものの、日本棋院の院生数の激減という結果に至り、日本囲碁界の凋落と中国・韓国の台頭の一因となった。
- 1995年のオウム真理教事件で起こったメディアスクラム。同年に起きた阪神・淡路大震災などの扱いが委縮されてしまったため偏向報道であるとの意見がある。
- テレビ、ラジオではプロスポーツ中継などで言われることがある。例えばプロ野球においては、電波、新聞ともに一方的である。例えば読売ジャイアンツが勝利するとスポーツ報知だけではなく、他の在京スポーツ新聞(日刊スポーツ・スポーツニッポン・サンケイスポーツ)がこぞって1面記事に持ち込むことがある。
- しかしこれらは、電波でもプロスポーツ中継などについてはおよそ全ての放送局で通常、「報道扱い」にしていないためでもある。このためNHKを除き、民間放送局では「一方的な肩入れ」を逆に「視聴者に楽しんでもらうためのもの」にしていることも多い。よって例えば阪神甲子園球場での阪神タイガース対読売ジャイアンツ戦ラジオ実況中継は、昔から関東ラジオ局向け(ジャイアンツ寄り実況)、関西ラジオ局向け(タイガース寄り実況)と、実況席から分けて別々に配信されている。またテレビ、ラジオ同時中継、すなわち毎日放送が同日担当した場合などでは、地元向けラジオでは「阪神タイガース寄り」、一方、東京送り、全国配信のテレビでは「できるだけ中立的に」といった配慮がなされ、あからさまにラジオで「テレビで試合をご覧のタイガースファンの方はラジオでお楽しみ下さい。」といったコメントが入れられることすらある。一方、高校野球などのアマチュアスポーツ中継などではNHK、民間放送を問わず、その主旨から極力、中立的な実況内容にされる。
- 高岡蒼甫が2011年7月23日に、「正直、お世話になったことも多々あるけど8は今マジで見ない。韓国のTV局かと思う事もしばしば。うちら日本人は日本の伝統番組を求めていますけど。取り合えず韓国ネタ出てきたら消してます。ぐっばい」とTwitter上で発言した。高岡は、韓国に対する批判ではなく、国の一大事時にどさくさ紛れに欺いて偏りをみせてる今の体制への嫌悪感から、日本を引っ張っている人間たちに対する抗議のために発言したとしている。自身の思想信条をTwitterで告白後、所属事務所のスターダストプロモーションとの間で話し合いがもたれたが平行線に終わり、高岡からは自主退職の申し出はなされなかったが契約は解消された。その後、契約解消が明らかにされた後のワイドショーの報道は高岡だけを批判する内容に終始しており、高岡の意見に賛同したり擁護する報道はほとんど見られていない。また、高岡の発言から派生した2011年のフジテレビ騒動・フジテレビ抗議デモなどもフジテレビをはじめとした在京キー局・主なメディア等では報道されていない。
- 2015年の安保法案に関する報道について、反対意見ばかり多く報じられているという意見がある。タレントのつるの剛士は「ニュースを観ていると『反対』の意見ばかり。『賛成』の意見も聞きたいと思う。」とTwitter上で発言した。しかし直後に反対派からバッシングを受け、炎上状態となった。これに対し反対派以外からは「公平な意見だ」「普通の意見と思う」などの意見が寄せられた。また、月刊誌「WiLL」で西村幸祐は、法案に賛成するデモが行われたことついて、産経新聞以外のメディアは「黙殺」していると指摘しており、またTwitter上で西村は「7月20日に大阪で行われた法案賛成デモはテレビや新聞は一切報じなかった。Yahoo!ニュースの意識調査では賛成派が反対派を上回っているが、国論を二分する問題なら、メディアは双方の意見を公平に扱うべきだ」と述べている。
レッテル貼り
- 1989年に発生した東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の容疑者が、漫画やアニメの収集・観賞を趣味に持ついわゆる「おたく」であった事から、おたくを犯罪者予備軍として扱う批判的報道がなされた(東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件#影響参照)。その後2000年代に入ると、おたくを題材にした邦画やテレビドラマが人気を博し、それをきっかけにおたく関連の番組や特集も組まれる様になった。また、中川翔子や栗山千明といった女性芸能人がインタビュー等で堂々とおたくである事を公言したり、一般にも「腐女子」と呼ばれる女性のおたくも増えている事から、以前の様な差別や偏見は幾分和らいでいる。しかしながら、一たび凶悪事件が起きると、当該事件を想起させると見なされている漫画やアニメがバッシングの対象となる事例も依然として起きている。
- 在京キー局の番組で大阪府を取り上げる際、決まってイメージ映像は道頓堀や通天閣が使われ、さらにBGMはよしもと新喜劇のテーマソングや六甲おろしが使われている。大阪府民はすべてお笑い好き・阪神ファンであるかの印象を持たれてしまう。
世界各国で偏向報道として話題になる例
世界各国では「報道に主張はつきもの」で、偏向性は逆に各報道機関の特徴、それが商品であることも多い。報道受信者に対し「明白かつ現在の危険」を与えるものが表現規制の対象とされることから、これに該当すると認められる(法的に規制すべき表現であると認められる)報道が「偏向報道」ということにはなる。しかしながらこれは必然的に「世論を誘導する危険かつ重大な虚偽報道」に限りなく近い、あるいはそのものであったりで、実際に問題となった時には世論からのバッシングどころではなく、法的処罰を伴うこともあり、日本でいうところの「偏向報道」とは異なるものである[1]。
- アメリカ合衆国ニューヨーク・タイムズは2002年9月8日、ジュディス・ミラー記者による記事で「イラクが過去1 - 2年にウラン濃縮技術に必要なアルミニウム管数千本を入手しようとしていた」という政府関係者からの情報を掲載した。その日チェイニー副大統領はTVでのインタビューで「これは今朝のニューヨークタイムズにも載っていた確実な情報だ」と述べ、フセイン大統領の核開発疑惑を訴え、イラク戦争への世論誘導に利用した。後に捏造であると判明するこの情報を流したのは、他ならぬチェイニー副大統領のスタッフ(リビー副大統領首席補佐官)だった。いわばチェイニー副大統領の自作自演である可能性が高かったわけだが、ジュディス・ミラーとニューヨークタイムズは情報源秘匿の原則に従って、この事実をイラク開戦後もずっと隠蔽していたため「ブッシュ政権の情報操作に加担した」と厳しい批判を受けた。
- ジュディス・ミラー記者はその後、イラク大量破壊兵器報道を巡るプレイム・ゲート事件に関連して連邦大陪審での証言を拒否したため収監される。同紙は「取材源秘匿」の原則に則ってミラー記者を擁護してきたが、ミラー記者が独断で取材源を明かして釈放されると一転して全社を挙げて非難に回る。同紙の編集主幹ビル・ケラーは、全社員へ当てたメールでミラー記者への擁護を撤回すると、同紙コラムニストのモリーン・ダウドはミラー記者を「大量破壊女」と批判した。同僚たちからの非難に居た堪れなくなったミラー記者は、2005年11月8日付けでニューヨークタイムズを退社したが、ニューヨークタイムズの彼女への対応は「昔付き合っていた女を振るようだ」(ニューズウィーク)と揶揄された。
- アメリカやヨーロッパでは、日本の東京電力福島第一原子力発電所の事故後、事実誤認や誇張した報道が相次いだ。アメリカ合衆国オハイオ州のタブロイド紙には「ヒロシマ」「ナガサキ」の隣に「フクシマ」のキノコ雲が描かれた。英国のタブロイド紙は原発事故対応中に「作業員5人が死亡した」とする記事を掲載。これが各国のメディアに次々に伝送、報道される事態になり、見かねた日本の外務省はすべての在外公館に向けて「5人死亡の報道が広く流れている。類似の報道に接したら、直ちに訂正を申し入れるように」と指示する内容の訓令を出すことになった。ニューヨーク・タイムズ電子版、2011年3月16日にはそのトップ画面に特報として建屋が吹き飛び、白煙を上げている福島第一原子力発電所の写真が使われ「事故は日本政府の認識よりもはるかに深刻である。在日アメリカ合衆国人には日本政府が発表した避難距離よりも遠くに避難するように忠告する。特に4号機のプールにはほとんど、もしくは全く水がない状態であり、そこで露出している燃料棒から放射能が外部に放出されている可能性が高い。」といった内容が報じられた。同日の米国CNNウェブサイトには「災害発生、東京からの大脱出」という内容の記事が掲載された。アメリカ合衆国国内では「強制力をもって規制しなければならないもの」とはされず、自由に報道されている。