AAV7 もしくはAAVP7Assault Amphibious Vehicle,personnel.model7:水陸両用強襲輸送車7型)は、アメリカ合衆国で開発された水陸両用車としての能力を有する装甲兵員輸送車である。

公式の愛称はないが、アメリカ海兵隊では水陸両用装甲車に用いる伝統的な名称

であるアムトラック(Amtrak)の愛称で呼ばれている[1]

 

目次

 

概要


浮航状態

地上だけでなく、水上を浮上航行する能力を持つ水陸両用装軌車両で、水上での推進力は主にウォータージェット推進を利用するが、履帯の回転だけでも7.2km/hの推進力を有する。

元はLVTP-7(Landing Vehicle, Tracked, Personnel-7の略称)の名称でアメリカ海兵隊における上陸強襲作戦用に開発されたが、実戦投入された湾岸戦争イラク戦争では、陸上にて通常の装甲兵員輸送車歩兵戦闘車として使用されることが多く、対戦車ミサイル対策として増加装甲キットが開発されて装備されている。

他の水陸両用戦闘車両との比較
  アメリカ合衆国の旗AAV7 ロシアの旗BMP-3F 中華人民共和国の旗ZBD-05 アメリカ合衆国の旗EFV イギリスの旗BvS 10
画像 Marines from India Company, Battalion Landing Team, 3rd Battalion, 2nd Marine Regiment, 22nd Marine Expeditionary Unit (MEU), assault the beach during an amphibious assault demonstration.jpg BMP-3 0025 copy.jpg ZBD-05 amphibious IFV in Beijing.jpg USMC-05539.jpg BvS10.jpg
全長 8.16m 7.14m 5.18m 9.27m 7.6m
全幅 3.26m 3.23m 2.74m 3.63m 2.34m
全高 3.31m 2.30m 3.04m 3.31m 2.2m(前方車両)
2.1m(後方車両)
重量 25.6t 23.0t 26.0t 28.7t 5.0t(前)
3.5t(後)
最高速度 72km/h 70km/h 65km/h 72km/h 65km/h
水上最高速度 13km/h 10km/h 20-30km/h 46km/h 5km/h
乗員数 3+25名 3+7-9名 3+8名 3+17名 1+4名(前)
8名(後)
武装 40mm自動擲弾銃Mk.19×1
12.7mm重機関銃M2×1
7.62mm機関銃PKT×3
30mm機関砲2A72×1
100mm低圧砲2A70×1
9M117対戦車ミサイル(砲発射式)
30mm機関砲×1
紅箭73C対戦車ミサイル発射機×2
7.62mm機関銃×1
30mm機関砲Mk.44×1
7.62mm機関銃M240×1
12.7mm重機関銃M2×1
備考   BMP-3の海軍歩兵仕様 突撃砲自走榴弾砲などの
派生型が存在
2011年開発中止 Bv.206海兵隊仕様
2両連結式

開発の経緯

1964年アメリカ海兵隊は新型水陸両用強襲車両の開発を各メーカーに要請、FMC社の案が採用された。1966年-1969年にかけて研究開発、試作が行われ、LVTP5(LVT5)を発展させたLVTP7(Landing Vehicle, Tracked, Personnel, model 7)が1970年6月に採用された。1971年より配備が始まり、1974年には発注されたLVTP7の生産が完了した。

LVTP7は、地上で72km/h、水上で13km/hの速度を出し、海兵隊員25名を収容できた。当時の武装は、M85機関銃1丁を装備した銃塔のみで、NBCに対する防護措置もとられていなかった。

1970年代後半、海兵隊は新型水陸両用強襲車両の取得計画を中止し、1977年にLVTP7を改修した車両を開発するようFMC社に求めた。14輌の試作車両が製作され、重量増加に対応したサスペンションの強化により車高を短縮、発電機電子機器の更新、銃塔へ発煙弾発射機を装備、各乗員用の暗視装置パッシブ式に変更されるなどの改修がなされた。海兵隊ではこの車両をLVTP7A1として採用すると共に、生産をA1型に切り替えて続行することを決定した。

1985年には制式名を「LVTP7A1」からAAV7A1(Assault Amphibian Vehicle,personnel, model7 Advanced1)に変更した。


M2重機関銃とMk.19 グレネードランチャーを装備した新型銃塔(UGWS)

海兵隊では1980年代後期に入り、12.7mm重機関銃(M85に替えてM2重機関銃を装備)、Mk19 自動擲弾銃および発煙弾発射機を装備したキャデラック・ゲージ製新型銃塔(UGWS 、Up-Gunned Weapon Stationの略)に換装し、車体前面に折畳式の波切板を装備、耐弾能力を7.62mmレベルから14.5mmレベルへ引き上げる強化型増着装甲キット(EAAK 、Enhanced Applique Armor Kitsの略)の装着を可能にする改修を行っている。湾岸戦争時点では、EAAKの追加装備が間に合っておらず、一部の車両はパンチングメタル状の金属板をスペーサーを介して車体に取り付けて、即席の中空増加装甲として運用していた。その後、エンジンM2ブラッドレー歩兵戦闘車が使用している強力なカミンズ V903水冷ディーゼルエンジン(525馬力)へ換装し、サスペンション・ホイールなどもM2 ブラッドレーと共通化する二次改修(RAM/RS、Reliability, Availability, Maintainability/Rebuild to Standard の略)が1998年に承認され、順次実行されている。2003年イラク戦争時には、RAM/RS改修済みの車両と未改修の車両が混在していた。

バリエーションとして、指揮車両型AAVC7回収車両AAVR7がある。1970年代にはLVTP7をベースにXM723が試作され、M2 ブラッドレーに発展している。

各型及び派生型


初期型銃塔を備えたLVTP-7(アルゼンチン軍)。前照灯部分が丸くなっている点が外観上の特徴である。

 
新型銃塔(UGWS)を備えたAAV7A1。走行装置はRAM/RS改修を施される前の状態。

新型銃塔(UGWS)、増加装甲(EAAK)に加えRAM/RS改修を施されたAAV7A1。上部転輪が追加され、転輪も変更されている。
 

クレーンを装備した回収車型のAAVR7A1。

通信用アンテナを装備した指揮車両型のAAVC7A1。
LVTX12
計画および開発時の総称。
LVTPX12
兵員輸送型の試作車名称。銃塔に12.7mm重機関銃ではなく20mm機関砲を装備している。
LVTCX2
指揮車両型の試作車名称。量産車とは異なり、兵員輸送型と同じ銃塔を装備している。
LVTRX2
回収車型の試作車名称。
 
LVTP7(AAV7)
兵員輸送型の量産型。
LVTP7A1(AAVP7A1)
近代化改修を施した兵員輸送型(改修内容は本文参照)。LVTP7からの改修車両に加え、生産当初から改修点を盛り込んだ新造車両がある。1985年に命名規則の変更からAAV7A1と改称される。改修により、銃塔は全てUGWSに換装された。
AAVP7A1 EAAK
兵員輸送型のAAVP7A1に増加装甲キット(EAAK)を装着したタイプ。
AAVP7A1 RAM/RS
兵員輸送型のAAVP7A1に第二次改修(RAM/RS)を実施したタイプ。
AAVP7A1 RAM/RS EAAK
兵員輸送型のAAVP7A1に第二次改修(RAM/RS)を実施し、増加装甲キット(EAAK)を装着したタイプ。
 
LVTC7(AAVC7)
指揮車両型。銃塔は装備されず、通常のハッチになっている。1985年に命名規則の変更からAAVC7と改称される。
LVTC7A1(AAVC7A1)
LVTP7A1に準じた近代化改修を施した指揮車両型。LVTC7からの改修車両に加え、生産当初から改修点を盛り込んだ新造車両がある。
AAVC7A1 EAAK
指揮車両型のAAVC7A1に増加装甲キット(EAAK)を装着したタイプ。
AAVC7A1 RAM/RS
指揮車両型のAAVC7A1に第二次改修(RAM/RS)を実施したタイプ。
AAVC7A1 RAM/RS EAAK
指揮車両型のAAVC7A1に第二次改修(RAM/RS)を実施し、増加装甲キット(EAAK)を装着したタイプ。
LVTR7(AAVR7)
ブーム式クレーンウインチを装備した回収車型。銃塔は装備されず、通常のハッチになっている。1985年に命名規則の変更からAAVR7と改称される。
LVTR7A1(AAVR7A1)
LVTP7A1に準じた近代化改修を施した回収車型。LVTR7からの改修車両に加え、生産当初から改修点を盛り込んだ新造車両がある。
AAVR7A1 RAM/RS
回収車型のAAVR7A1に第二次改修(RAM/RS)を実施したタイプ(なお、回収車型のAAVR7A1にEAAKを装着する改修は、2015年時点まで実施された例は無い)。