エルフ転生からのチート建国記 作者:月夜 涙(るい) 五章:帝国崩壊
俺は、【知覚拡張】を使って訓練場の音を拾い始める。
そして、背筋が冷たくなった。
「これは……いったい」
訓練場には怨嗟の声が響き渡っていた。
「悪魔を! エルフを殺せ!」
「奴らを根絶やしにしろ」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
エルフに見立てた、丸太に数人が血走った目で剣を叩き付けている。
理性なんてない純粋な殺意に突き動かされての行動だった。
「どう、びっくりした?」
「これは、いったい……」
兵士たちの行動は人に強制されてのものではない。本心からでないとあれほどの殺意は放てない。
「わかっているんでしょ? 今までエルシエは帝国兵を殺しすぎた。当然兵士には、家族も友達もたくさんいる」
「それはわかる。だが、それにしても異常だ」
「まあ、それは帝国の努力かな」
その一言で状況が理解できた。
「プロバカンダか」
「その通り、やっと紙が安価に作れるようになったし、それなりに識字率があがったからやりやすかったよ。少なくともこの街の人間にとっては、今回の戦争は凶暴なエルフからの侵略戦争で、必死に防衛するも劣勢。街を守るために何人もの兵士が犠牲になったって認識なの」
馬鹿な話だ。エルフがこの街を攻める理由なんて何一つない。
俺たちは滅ぼされたくないから戦うしかなかった。そこまで追い込んだのは帝国だというのに、まるで立場が逆転している。
「それだけじゃないだろ?」
「うん、もちろん。街の人たちはこうも信じている。今の苦しい生活は全部エルフのせい。エルフがいる限り、この地獄が続く。エルフを滅ぼして初めて幸せになれるってね。あそこで訓練している人たちは、恨みに身を焦がしながら、大事な人を守るために、幸せになるために必死に剣をふるって強くなろうとしている。今までエルシエが勝ってきた帝国兵とは士気が段違いよ。それは急造兵の練度の低さを補ってあまりある」
かつて、俺はエルシエの訓練に帝国への恨みを利用した。
それと同じことを数百倍の規模で実施されている。はっきり言って怖い。街一つがそのまま敵になったようなものだ。
「教えてくれ、アシュノ。これは、お前が仕込んだのか。お前は、エルシエを滅ぼしたいのか?」
「違うよ。わたしは知っていて止めなかっただけ、今回の絵を描いたのはシリルもあったことがある四大公爵の一人、ヴォルデック」