エルフ転生からのチート建国記 作者:月夜 涙(るい) 五章:帝国崩壊 89/104
第十五話:壊れた帝国
~ヴォルデック公爵視点~
「説明しろ! なんだ、この物価の値上がりは! 小麦の相場なんて十倍近く跳ね上がっているじゃないか!? それも、使いつぶすはずだったフォランディエ公爵の領地だけじゃない! 帝国の四大都市全てでだ」
帝国領内の公爵宅にある執務室で、普段は冷静沈着なヴォルデック公爵は叫んでいた。手元には、領内の状況をまとめた資料がある。
一月もしないうちに戦争なのに、一向に遠征用の食料が集まらなかったので担当者に確認してみれば、食料が値上がりしているせいで進んでいないと答えがあった。
それならばと、その値上がりの理由を調べさせていたのだ。
食料が集まらない理由には、軍の備蓄が盗まれたり、兵が横流しをしているというのもあるが、この極端な物価の値上がりに比べれば些細なことだ。
「それが、帝国内のありとあらゆるものが、近隣の村に買い占められ、持ち出されております。どんな高値をつけようが売れてしまうので、どんどん商人たちは値上げをしている模様です。さらに大量商品が外に持ちだされた結果、帝国中で食料を始めとした物資不足が発生しているのも大きいです」
「外の村の連中に物資が買い占められているだと? ありえない。そんな金があるわけないだろう? 私をだまそうとはしていないだろうね?」
だというのに、帝国の四大都市全ての物価があがるほどの買い占めをされている? それは絶対にありえないことだった。そんなことは、名高い商業都市エリンでも不可能だ。
「嘘ではありませんヴォルデック公爵様。なぜか、貧しい村々からの使いが大量の紙幣を使い、食料や宝石を買い占めているのです?」
「紙幣だと?」
「はい! 金貨などは使わずに紙幣です」
「まさか? 紙幣の偽物が出回っているのか?」
金貨と交換するという前提で発行した紙幣。これはもともと、接収した旧フォランディエの領地を使いつぶそうと、合法的に領民から金を搾り取るために考えたものだ。
しかし、その利便性が認められ、帝国全土に普及したという経緯を持つ。
軽く嵩張らず持ち運びが容易。なにより、いつでも帝国に存在する金の総量を”見かけ上”増やせるという紙幣は、画期的な発明であり、ヴォルデック公爵は帝から直々にほめられ、残りの四大公爵から羨望の目で見られていた。
紙幣により、ヴォルデック公爵は四大公爵内での発言権が強くなり、さらにこの事業を一手に任せれることにより、莫大な利益を得ている。
同時に、ヴォルデック公爵は紙幣の危険性も理解していた。紙幣の値段は、帝国なら間違いなく金貨に換金できるという信用に他ならない。だからこそ、信用が失われたときに、紙幣は紙くずとなるのだ。