ネクストライフ 作者:相野仁 八章「カタストロフ」 126/182
九話「邪神、魔王、チート」
「“バベル”」
「【ヴァジュラ】」
邪神ティンダロス(異世界最強世界絶滅級)黒いドーベルマンの姿をした何かである
初代最強大魔王(女性)アウラニースは真下へ「フィンブルヴェトル」を吐く。
白いブリザードが洪水へと着弾し、凍りつく。
そしてその中から黒い影が飛び出してきた。
アウラニースは吼えると「ラグナロク」を繰り出した。(大陸一撃壊滅力)
全身から放たれる赤い業火はファーミア大陸に広がり、
水をみるみるうちに蒸発させていく。
暗かった世界も、煌々と燃え盛る炎のおかげで、一気に明るくなる。
「ラグナロク」による炎は、ティンダロスによる水や風の影響を完全に無視し、
大陸全土に達した。
「猪が。“ソドム”」
迫るアウラニースにカウンターを叩き込もうとするが、それはマリウスが展開した
防御魔法で防がれる。
完全に防いだわけではなく、威力を半減させた程度ではあったものの、
アウラニースの耐久力ならばそれで充分だった。
少なくとも体躯で言えば、巨大な恐竜が子犬に襲いかかっているような構図になる。
もちろんマリウスの視覚による錯覚で、犬は世界を滅亡の危機に追いやっている邪神だ。
「ジャガーノートッ!」
その間にアウラニースは、「ラグナロク」、「フィンブルヴェトル」、「ラグナロク」という
連続攻撃を繰り出していた。
マリウスが思わずティンダロスに同情したほどに激しい攻撃の嵐は、
「“メギド”」
「我が力も今は本来の千分の一程度に過ぎぬ。分かるか?
貴様らクズがどれほど矮小なはべし」
強風に煽られたか、フードが取れてマリウスの素顔が露になる。
マリウスもアウラニースも気にはしなかったが、ティンダロスは驚いた。
「なっ……」
絶句して言葉が出ないという風の邪神を無視し、まず「エリシュオン」を発動直前で
キャンセルし、「ヴァジュラ」「アグニ」「アブソリュートゼロ」「アヌビス」をキャンセルする。
そして六度目に「アニヒレーション」を選ぶ。
「き、貴様は……ナイアーラトテッフ?」
「<……無に帰せ>【アニヒレーション】」
邪神の声を掻き消し、何が起こるのか、本人ですら分からない攻撃が放たれた。
少なくともFAOというゲームにおいて、バグ技が見つけられても
固有名がつけられた事はない。
唯一の例外がこのバグで、最初にこのバグ技を発見した人、続けて実践してみた人達、
それを映像で見た人達は、あまりの威力から満場一致で一つの名を与えた。
「消失
」と。
それを映像で見ただけだったマリウスは、名前がついた理由を思い知る事になる。
光が消えた時、何もなかったのだ。
ティンダロスも、燃え盛る「ラグナロク」の炎も、そして燃えているはずの
ファーミア大陸でさえも。
ただ、大海原が広がっているだけだった。
「…………あら?」
アウラニースですら絶句してしまっている。
雨、雷、風が止み、黒い雲から切れ目が生じ、日光がこぼれ始めている事から、
多分ティンダロスは消滅したのだろう。