エステルドバロニア 作者:百黒 2章 神の都 12/38 5 悲願
腐った民。腐った官。腐った国。
神を崇め奉る地において蔓延る横暴は誰の目にも余る行為。
それを覆そうとする人間は、虐げられている者以外にはいない。
どうしてこうなるまで誰も何も言わなかったのか。
「いやぁ、いやあああ!」
「おご、う、ぐえっ」
「痛い痛い痛い痛い! 痛いいいいい!」
女を人と思わない所業が蔓延している。
手慣れた様子で壊そうとして、絶叫を聞いて楽しげに笑っている。
飢えた獣が、ただ発散するためだけに動いている。
男と女の生殖行動。それがこれほど醜いものだと考えたことなどなかった。
転がり落ちる手足。風船のように膨らんだ胴体。目に魔物の腕を突き刺した顔。
五体を切り刻まれた挙句に弄んだ痕跡のあるその死骸は蛆が湧いて皮がとろけており、
喉奥から込み上げてきた吐瀉物を堪えることができない。
「嘘、嘘……ロディ……そんないや、いやああああああああああああ!!!」
シエレの絶叫。老人の叫び。怒りの声。舞う鮮血。
日常が崩れ去っていく。数時間前までの幸せが塗りつぶされる。
みんな壊れてる。みんな、みんな、みんな。
神都の実態を目の前に晒され、血肉の狂乱を目に刻まれたことは
一生忘れることはできないだろう。