「イナイ、イナイ…ドコニモイナイ…」
背もたれのついた木の椅子が
誰かを探すように足を引きずるように
歩いていました。
昔、まだ自分が小学生だった頃
母が夏休みの読書に買ってきた
一冊の本。
宿題の感想文を書くのが
目的だったような。
夏休みの宿題なんて
テキトーにやりばいい。
分厚い小説なんて読む気もしない。
二段ベッドの上で横になりながら
はじめの方のページをパラパラ。
「ふたりのイーダ」というタイトルだった
夏休みも後半になると
さすがに感想文の為に読み進めることにした。
我慢するように読んでいるうちに
いつの間にかどんどん読み進んでいた。
椅子が探していた"イーダ"という少女。
最後には不覚にも涙を溜めていた。
感想文にはなんて書いたか
さっぱり覚えていない。
多分、通り一遍な感想しか
書いていない気がする。
でも本の内容は何十年もだった今でも
ふとした時に思い出すのでした。
もうすぐ8月6日。
戦争のない平和な日が少しでも長く
続きますように。
