会社の経営と戦争の関係。…と対戦車ライフル



🔵使えないと思える物も、新たな運用次第では武器になる


会社の経営の「肝(きも)」は「如何に効率よく効果的な方法で、お客様を喜ばせ、それを会社の利益に繋げるか」であるが、この考え方は「戦争・戦略理論」がベースとなっている。会社の経営を説く経営論の本を戦略論の本に置き換えると、


「如何にして効率よく効果的な方法でお客様(敵)を喜ばせ(困らせ)我が会社(自軍)の利益(勝利)に繋げるか。」となる。


有名な会社のTOPが孫子の兵法を愛読しているが、その大きな理由がここにある。(そもそも経営戦略に使われる「戦略」は戦争論での「戦略」が由来している。)


それで戦略でも経営論でも目に見えて効果的なのは「新技術の導入と、その運用方法の確立」だ。他のライバル(敵)が持っていない技術を先に手に入れ、それを効果的に運用出来れば勝利に繋がる。新技術・新たな運用方法は古い技術・古い運用方法を圧倒し駆逐、過去のやり方(セオリー)を一掃出来るパワーがある。


第一次世界大戦で現れた新兵器「戦車」に対抗出来る武器として、脚光を浴びることとなった「強力な弾と銃」は第二次世界大戦が勃発するまでに「対戦車ライフル」を生み出し、第二次世界大戦当初、各国がコレを使ったが、対戦車戦闘となった戦車は急激に進化し、戦車の装甲は二次関数が如く加速度的に肥大。

加えて、同じく生み出された現代の「化学エネルギー弾の代表格」となってるHEAT弾(成形炸薬弾)を使った歩兵が携行出来るサイズと重さで戦車をより確実に屠る歩兵用対戦車兵器の登場のせいで、各国はHEATを発射する歩兵用携帯兵器の開発に傾注しだし、一方で望む効果がみるみる得られなくなった対戦車ライフルは廃れていった。


古い物(対戦車ライフル)は新しい物(HEAT弾を使用する対戦車ロケット弾など)によって駆逐されていった訳だ。


しかし、ソ連だけは対戦車ライフルが持ち得る「ある効果」が、兵器として見劣りするライフルが強大化する戦車にも対抗出来るということに気づいたようで、この国は大戦が終わるまで対戦車ライフルとその部隊を使い続け、HEAT弾を使う個人用対戦車兵器に傾注しなかった。(というよりHEATを使った歩兵用対戦車兵器の開発に乗り遅れ、傾注出来なかったが実情だが)  


ソ連は何に気付いたか?


戦闘の目的は「敵兵力の無力化」だ。
簡単に言えば、敵の使う兵器の破壊だ。
だが、この敵兵力の無力化を煎じ詰めると、別に敵の兵器破壊に固執することはない。要は兵器なら「その兵器の1番の脅威のポイントだけ潰せば良い。」となる。戦車の1番の脅威は一撃で破壊する砲による火力と思いがちだが、もっとも怖いのはその強大な火力が、人間よりも遥かに高速で縦横無尽に走り回られる事だ。


動かない戦車は「ただの砲台」に成り下がる。しかも戦車の性質上、鉄の棺桶であり四方を一度に見回せず、目の届かない死角だらけ。動かない&動けない戦車なら歩兵でもどうにかなる好機が生まれるのだ。

ソ連ははっきり言って歩兵が携行できるHEAT弾(成形炸薬弾)を使った対戦車兵器の開発に出遅れる。代わりにようやく開発・生産にこぎつけた対戦車ライフルを使う部隊を編成し、(隊長以下10人程)敵戦車通過ポイントを戦況と偵察で予測して、待ち伏せ、対戦車ライフルで戦車を破壊するのではなく、周囲を見回すために戦車から頭を出している車長・視野の狭いペリスコープ越しの視界で戦車を操作している操縦手をペリスコープごと殺傷、及び戦車の起動輪を撃ち抜き破壊し擱座(かくざ=動けなく)させてから、中の戦車兵を撃ち殺す作戦に切り替えた。


戦車兵は1人かけても戦車の運用には大きな支障が出るのでこの策なら、敵戦車兵の一人でも手傷を負わせるだけで大きな効果が出せる。負傷者1人を出すだけで、単純に救護人2人、救護車両1台に運転手、戦車1両も行動不能に陥れられる。負傷者が1人出れば、負傷者を助ける為に同時に数人が前線から撤退せざるを得ない。この事実にソ連は気がついたのだ。



ソ連軍は歩兵用の新型の対戦車兵器の開発に大きく出遅れたが、結果として敵対したドイツ軍は弱いはずのソ連軍の対戦車ライフルに終戦までチクチクと苦しめられる事になる。多くのソ連軍対戦車ライフル部隊の隊員の命と引き換えに。


ソ連軍の対戦車ライフルの運用は見劣りすれども効果的な運用をなしたと言えるが、それはこれを扱うソ連兵士にかかる危険と負担を無視したものであり、兵士の命も大切なものとして計算に入れるなら、とても効率の良い策とは言えない。この点は付け加えて置かねばならない。

その後、ソ連は対戦車ライフルの時に見出した効用から、敵兵士の前線からの強制退場を狙い、「死なない程度に人間の片足程度を吹き飛ばす」対人地雷を作り、ベトナム戦争において大量にバラ撒く。


やってることは非人道的に違いないが、「見劣りする兵器(モノ)、古い技術(モノ)でも、新たな運用で活路を見出せる」を示したという点は、経営論においても大いに参考となる話だろう。


🔵デグチャレフPTRD1941


第二次世界大戦期ソ連の対戦車ライフル。
名称を訳すと「デグチャレフ試作対戦車銃1941年型」という意味になるらしい。名称からも分かるように、あくまで試作兵器であったが独ソ戦の勃発により、対戦車兵器としての能力不足を承知の上で大量配備された。そして以後もHEAT弾の開発が遅れていたソ連では能力不足を承知で、対戦車ライフルを使用し続けるしかなかった。


軽装甲車両に対しては対戦車ライフルとしての装甲貫通能力を十分に発揮できたものの、重装甲戦車との戦闘では敵戦車のペリスコープや砲身、走行装置などの弱点を狙撃する形で運用していた。
装弾数は1発だが、銃身と機関部が後座することで反動を軽減する機構や自動排莢機能、可動式のキャリングハンドルなど実用性に長けた設計が伺える。

デグチャレフ対戦車ライフルの大きさ