「今のおばさまの話を聞いて思い出しました。私、両親とおじさんを亡くしていっぱい泣きました。もう、これ以上悲しいことなんてないと思ったのに、おじさんのブログを見て泣いたんです。とめようにも、とめられなかったんです。それはきっと、おじさんの意志だったからだと思うんです。だから、ちゃんと、おばさまの気持ちは伝わっていますよ」
「美空さん・・・ありがとう・・・」
「・・・私、そろそろ行きますね・・人を待たせているので・・」
「・・・ちょっと待って、美空さん!突然、こんなことを言われたら迷惑かもしれないけど、あの人の意志と瞳を持ったあなたにこれからもこの家に来て・・いえ、住んでもらっても構わないわ!お願いします。何かの縁だと思うの」
「・・・おばさま・・私の主治医の先生が言っていました。『君には日差しはまぶしすぎる』と。この家には日向さんと太陽さんがいて、私にはとてもまぶしすぎます。・・・さようなら・・・」
「・・・・待って!そんなところまで、あの人に似なくたっていいの!それに、まだまだ美空さん、甘えたっていいの!私の話、ちゃんと聞いてくれた?あの公園で疲れ果てて眠ってしまった彼に、日傘をさしたのは、私。私がいるからね・・・まぶしいだけじゃないようにするからね・・・」
「おばさま・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「紫獲、紫獲よ!」
「その御声は、弥勒様・・」
「紫獲よ、このたびのそちの人界での施し、まこと、見事なり。天界の上級神たち、そちの上級神への復帰を賛同するものなり。よって、我、そちに伝えし」
「ありがたきお言葉にございまする。しかしながら、私はただ、運命の糸を束ねただけに過ぎませぬ」
「そうは言っても、これだけ広い人界において、生死を操らずして、人間という儚きものたちに一瞬の幸福を授けたそちの力。天界の上級神、誰しもかなわず」
「恐れながら、弥勒様。それは違いまする。確かに神は、人間にはない力を持っております。人間は時にそれを『奇跡』『神がかり的』と呼びまする。しかし、神は成長しないのでございまする。さらに人間には神にはない力を持っておりまする・・・
それが『絆』『ぬくもり』『あたたかさ』・・」
「そちは、あの美空と言う少女と、古の少女を重ねて見ていただけにとどまっておらんかったのだな・・」
「美空だけではございませぬ。最後まで、家族を思って逝った男、その他にも様々な人間から学びました。人間には成長する力があると言うことを・・・
本当に、私は運命の糸を束ねただけに過ぎませぬ。人間が成長し、糸を布にして、色をつけ、そして、自分たちを温める着物を作り上げたのでありまする・・・」
「そうか、それでそちは美空からそちの記憶を消したのだな・・・」
「弥勒様にはお分かりでしたね・・」
「しかし、我もこのまま、帰るわけにもいかん。本当はそちを連れて帰りたい。今一度聞く。天界に戻りて、上級神に復帰せぬか?」
「弥勒様。かつて、私も天界で名を馳せようと、傍若無人に振る舞いました。しかしながら、私には今はそれには何の興味もありませぬ。大きな名も欲しいとは思いませぬ。それよりは人間のように、成長し、あたたかさを大切にできる神でありたい。
たとえ、名は埋もれ、八百万分の一の神と呼ばれようとも・・・」
「紫獲よ・・・そち、本当は・・・いまだ、古の少女を・・・」
「弥勒様には、やはり隠し通せることではございませぬ。私は私の力のみで、誰の力も借りることもなく、かの少女を見つけとうございまする。それが、私の神としてだけでなく、心という人間に教えられた不確かな部分の痛みを消し、大切なものを守る力を身につけることにつながると思うのでございまする」
「そうか、紫獲よ・・・しかしながら、願いがあるようだが・・・」
「その通りにございまする。かの、家族を思い逝った男を天神の滝にて修行させとうございまする。人間は死ねば魂がいつまでも近くにいると考えているようですが、魂は来世への転生を始めまする。さすれば、現世の記憶は消えまする。かの男、それを望みますまい。天神の滝で修行すれば、転生せず。神となり」
「天神の滝・・・天界と人界をつなぐ滝・・・ただし、神になる以上は相当に修行はつらく激しい。耐え切れなければ、白龍に魂を喰われよう。それに中級神以上の賛同が・・・」
「弥勒様。それならば、私が・・・」
「遮那か!」
「遮那様。ありがたきお言葉・・・」
「紫獲よ、神の世界でも『絆』はあると思って欲しい。ないと思うのなら、私たちから作ればよいのだ。弥勒様、かの男、私も見てまいりましたが、流行り病に最後まで抵抗する力を持っておりまする。きっと、やり遂げましょうぞ」
「わかった。遮那、あらためて礼を言うぞえ。紫獲よ・・これからも人界はそちに任せた。これで、しばらくは人界も安泰だと、天界には伝えておこう。して、かの男にはなんと伝えておくがよいか?」
「長い時間がかかっても、神となりて家族に会い、守りたいのなら、出会ったものたちの強さ、そして、己の強さを思い出し、絆を忘れるなと」
「しかと、届けようぞ(その言葉、そち、自らにも言い聞かせておくがよい)」