「ビオトープ・・・。あの人らしいわ。実はね、結婚する前、彼、結構忙しいのに、休みを取って、私をよく誘ったの。本当に私のことを好きだったのか、それとも私が社長令嬢だったからか分からないけれど、とにかく、連れ出してくれた。それがね、いつも決まって同じ公園なの。それでもうれしくってね・・・。でも、彼はそこで自分の夢を一方的に話しては疲れて眠ってしまうの。私はそんな彼に日傘をさして、寝顔を見て・・・それで幸せだった」
「(だから、おじさんビオトープに・・・)おばさま・・・でも、おばさまは早くからHTさんがおじさんって分かってらっしゃったんですよね?」
「最初からあれ?と思ったの。彼の投稿したウタには聞き覚えがありましたから。そして、プロフィールを見て、生年月日が同じだし、持っていなかった携帯の引き落としが、通帳に記入されてあったし、やはり最後にはハンドルネームです。私の勘が正しければ・・・」
「おばさま、実はね・・・このケイタイ、ある人から渡されて、目が見えるようになってすぐに見ました。そこには私の知らないおじさんがいました・・・。家族に向けてあやまってばかりのおじさん・・・。こんな小さなケイタイの中に確かにおじさんが生きているって実感して、そして家庭に帰りたがって一生懸命にあやまってばかりのおじさんが、わたしはますます好きになって・・・好きと言っても恋とは違いますけど、・・・だから『珍さん』からの最後のコメントを見た時には『すぐに返さなきゃ』って思ったけど・・・どうして奥さん、もっと早く最後のコメントを出さなかったのだろう?あと一時間、いや、後、数分でも早ければ、おじさんもコメントを見て、もっと安らかに天国に・・・」
「美空さん・・・ごめんなさい。私も、心の整理がつかなかったの・・・」
「おばさま・・・、私、生意気なことを・・・」
「ううん、いいの。ずっと、胸につかえていたことですもの。本当なら、最後のコメントを早く出せばよかったのかもしれませんね・・・。でもね・・、私も、社長令嬢とはいえ、ただの飾りではないの・・・結婚して、家族ができてからのあの人、仕事ばかりだった。そして、私たちを見捨てた時もあったの・・・あの人は気づかれないようにしていたつもりだったけど・・・私はそんなバカではないわ・・・だから、なかなか許せなかった。時間がかかってしまったの・・・」
「おばさま、そうとも知らずに私・・・ごめんなさい・・・」
「それより、あなたの話って?」
「これだけ謝っているおじさんに、手を差し伸べない家族に、ケイタイをかえしたくないって思ってしまったんです。でも、見つけてしまったんです。ケイタイの中の最初で最後の日記を。おばさまの勘は正しいと思います」
「Hは日向(ひなた)のH ですね?」
「そうです。おわかりですよね、Tは?」
「太陽(たいよう)のT 。子どもたちの名前です・・・」
「おじさんは日記に『ブログには名前をつけなくてはいけないらしい。少しでも、君たちに気づいてもらえるように・・・あの頃、公園で夢として語り、現実となった、二人の最愛の子どもたちの頭文字を取ってHT としよう』と書いてました」
日記について話し終えると、おばさまは涙ぐんでいるように見えた。
「あの人・・、あの公園での夢だけは忘れてなかったのね・・あの人ね『あの公園の日差しが好きだ。癒される』って、ついには『子どもは一人じゃ寂しいから二人がいいなあ。それから、子どもって癒されるから、この公園の日差しと同じだから、それにあやかって、日向と太陽って名前にしよう』って・・・。私が女の子だったらどうするの?ってきいても『日向なら女の子でも大丈夫でしょ?あと一人は絶対男の子』って、・・強引でしょ」
「・・おばさま・・」