(また・・・また私はこの道に来てしまった・・・あなたと別れてから、もう二度と来ないつもりでいたのに・・・
あなたは、いつも私に一方的にあなたの愛をぶつけるだけだった。最初はそれでもよかった・・・でも、雨の日には寂しくて、私から会いに来たなんて、あなたは知らなかったでしょ?雨の日なら、車の音も、雨音で聞こえないしね・・・結局、近くに来ただけだしね・・・)
「看護師さん?看護師さん?」
「あっ、はい!ごめんなさい。運転に集中してて」
「あっ、こちらこそ。でも、本当に助かりましたよ!看護師さんが、おじさんの家を知っているなんて、ありがたいですよ」
「いえ、とんでもないですよ(ごめんなさい、美空さん。やっぱり、あなたのためではないの・・・彼を家庭に帰してあげたいという気持ちが強いの・・・まだ、私、彼のこと・・)」
「それにしても看護師さんとおじさんってただの知り合い?結構、『愛人』だったりして!」
「(ここで間を空けたら余計に、それに美空さんにはあの人の思い出はきれいなままであってほしい)だったらいいですね!」
「なあんだ!違うんだ!本当にそうだったら、余裕なくなっちゃうもんね!そんな答え方できないよね!」
「はは、そうですね・・・美空さん、あと10分ほどで着きますよ・・・」
私は、看護師さんのその言葉を聞いて、急にケイタイを渡したくなくなった。自分の、子どもの部分が顔をのぞかせた。そして・・・、
「おじさん、もう一度くらい、ケイタイ見てもいいかな?」
私はおじさんのケイタイを開いた。
(あれ?前は気づかなかったけど・・・おじさん・・一度だけ日記つけてる。ちょっとだけ・・・・・!?ごめんなさい、おじさん。私、もう迷わない。ちゃんと届けるからね)
(あの坂道が見えてきた・・・あれを上りきると・・もうすぐあなたの家・・でも・・いつも、この坂道が私にとって『壁』だったわ・・・どうやらそれは、今も変わらないようね・・・。私が行ったら、誰も幸せになんかならない・・・やっぱり私は所詮、愛人なのね・・・幸せはもとめちゃいけない・・・もう、これ以上は・・・)
キキィ
「えっ?看護師さん?もう、着いたんですか?」
「違いますよ。実は、この坂道ですから車でいけるのはここまでなんです。ここからは歩いていくしかありません」
「じゃあ、一緒に・・」
「車を無人で停めておくわけにはいきません。ここからは美空さん、あなた一人で行ってください」
「ですが、場所が良く・・・」
「大丈夫ですよ。この坂道を登りきったら、左に曲がってください。そしたらすぐに見えるひときわ大きな白い家がおじさんの家です。さあ、眼鏡をかけ直して、日傘をさして・・・彼の、おじさんの家にお願いしますね」