(紫獲、紫獲・・最後に父のように慕ってきた所長、そして前世の母親・・美空ちゃん、心の隙間を埋め尽くしてくれた珍さんに囲まれて・・・たぶん、お前が仕組んでくれたんだよな・・・。やはり、神だよ・・・お前は・・・)
「みんな・・・あ、りが、と・・」
ピー
「心停止です」
「うそ!やだ!そんなの」
「美空さん、どくんだ!マッサージの準備!」
「はい!1,2,3」
(美空、美空!我が声、聞こえるか?)
(・・・!?紫獲?紫獲なの?なんとかならないの?神でしょ?私の前から大切な命をいくつなくせば気が済むの?)
(これもあの男の天命なり。いくら我、神といえど、手およばず。それよりもあの男の魂、すでにここにあらず。安らかに眠らせてほしい。あの男もそれを願っておる)
(・・・もう、どうしようもないのね・・・。おじさんも、ゆっくり・・・わかった・・・)
「先生たち、もういいわ」
医師たちはただ、美空のために最善を尽くした。しかし、美空の一言で手を止めた。
「心肺蘇生措置を終えます・・・」重苦しい空気が流れる。
名古屋から駆けつけた三人、特に関谷は泣き崩れてしまう。それを見て所長が言う。
「あのお嬢さんだって、泣いてないんだから、お前もしっかりしろ!」
お嬢さんとは美空のことだった。美空の目にはもう涙はなかった。ただ、大好きなおじさんのそばに少しでもいたいという気持ちで、頭がいっぱいだった。
蘇生措置で吹き出した血を丁寧にふき取る元愛人だった看護師。必死に涙をこらえながらふき取る。そして、異変に気づき、主治医を呼んだ。
「先生・・・こんなことって、あるんでしょうか?」
主治医は彼の顔を見て、美空に話しかけた。
「君のおじさん、耐えられないほどの痛みがあったはずなんだよ・・・。でもね・・・美空さん、おじさん、笑ってるんだよ・・・微笑んでるんだよ・・・顔を触ってあげてごらん」
美空は手を顔に持っていき、口元や頬のあたりを触った。
「本当に・・・微笑んでる・・・」
「こんな患者さん、初めてだよ・・・美空さん、たぶん、君に会えて、最後も君と一緒で幸せだったのでしょう」
「何でそんなことが先生にわかるの?」
「実は、彼は私にある『約束』をしていたんだよ」
「約束?」
「ああ、自分が死んだら、自分の目を美空さんに移植してあげてほしいと」
「え!?」
「しかし、その手術の成功例はそんなにありませんよ!」
「その通りです。袴田先生。しかも、決断を急がないといけない。何せ、おじさんはもう死んでしまったんだ。美空さん、どうしますか?」
「・・・今・・、今、決めないといけないですか?」
「そうです」
「・・・はっきり言って、迷います。でも、おじさんには五体満足で、何不自由なく天国に行ってもらいたいの。それに私は目が見えなくなって、いろんなことが逆に見えるようになったから・・・だから、いいわ、・・断ります・・・」
「君なら、そう言うだろうと思ってた。だから、彼にも『本人次第だ』と言っておいた。でもね。思ったんだけどね。何で、君の大好きなおじさんが、痛みが激しくなるのがわかっていて、薬を使わなかったのか?彼は『ひょっとして、薬を使ったら使い物にならない目になって、移植できなくなるのじゃないかな、薬漬けの目を移植させたくない』って思ってたんじゃないかなって思ったんだ」
「!?」