映画

ブーべの恋人

La ragazza di Bube

 

 

監督 ルイジ・コメンティーニ

脚本 ルイジ・コメンティーニ

マルチェッロ・ファンダート

原作 カルロ・カッソーラ

音楽 カルロ・ルスティケッリ

公開 1963年12月

   1964年9月(日本) 

上映時間 112分

製作国 イタリア・フランス

モノクローム

 

 

 

 

 

 

 

 ☘️

 

 

 

本作の原作はカルロ・カッソーラの小説『ブーべの恋人』である。

1959年、我が国の芥川賞に相当するストレーガ賞を受賞した。

 

いわゆる社会派の恋愛小説で、戦後の混乱期にあったイタリアの揺れる世相を一人の若い女性の目を通して描いている。

彼女は、元パルチザンの一員として真っ直ぐに生きる恋人を支え、素朴で一途な生き様を呈して憚らないトスカーナ地方のたくましい女性。

 

カルディナーレの凛とした美貌と優れた演技、そしてルスティケッリの主題曲が本作を単なるメロドラマに留まらない、シリアスで忘れ難い作品に仕上げている。

 

 

 

 

キ ャ ス ト 

 

 

マーラ

クラウディア・カルディナーレ

 

 
 

 ブーべ/アルトゥーロ

ジョージ・チャキリス

 

 

 

 

 

ステファノ

マルク・ミシェル

 

 

 

マーラの父

エミリオ・エスポジート

 

 

 

マーラの母

カルラ・カーロ

 

 

 

ソルフィ司祭

ピエルルイジ・カトッチ

 

 

 

リドンニ

マリオ・ルービ

 

 

 

 

 

 

ストーリー 

 

☘️追想

今日もマーラは列車に乗り、彼に会いに行く。

2週間おきに乗る列車。

いつも心がはやる。

旅の道連れは幸せだった頃の思い出だ。

過去は生き続ける。

辛かったが悲しくはない。

すべての始まりは1944年7月の祭りの日だった。

 

 

☘️ブーベ現る

第二次大戦でイタリアは枢軸国側で戦った。

そして1943年11月、無条件降伏し、戦線を離脱した。

これで連合国側との戦争は終わったが、いわゆる

戦後処理という大きな課題が立ちふさがった。

たちまち政治体制はどうなるのか。

今まで通りの王制か、それとも共和制にする

のか。新体制を求めて人々はせわしなく動く。

 

そんな中、1944年7月、トスカーナの田舎の村にも連合軍の車両が現れ、民情を視察するなどした。

人々はファシズムを排撃した彼らを歓迎した。

とりわけ若者の反応はよく、折しも祭りの興奮も

あって、心身共に解放を喜んだ。

 

 

 

その頃、村の娘マーラの家に若い男性がやって来て父親に会いたいと言った。

その男がブーベだった。

 

ブーベは通称で、正式にはアルトゥーロといった。

マーラが父は不在といいながら彼を招じ入れると、彼はマーラの兄サンテが亡くなった旨を伝えた。

ブーベによれば、サンテは自分と同じパルチザン

の一員だったが、ファシストによって殺された。

マーラの父は事実を受け入れ、ブーベを歓迎したが、母のブーベを見る目は厳しかった。

 

貧しい夕食の後、ブーべがリュックから白い布地を出してマーラに渡した。パラシュートの一部で絹だ。「あげるよ」 

「私にお土産ね。これでブラウスを作るわ」

 

翌日、何者かがブーベを迎えに来た。

ブーべはジープに乗り込んだ。そのまま姿を消した。

 

 

 

ブーベが去ってからいつもの平穏な日々が続いた。

 

ある日、ブーベから郵便物が届いた。

なぜかマーラの胸はときめいた。

送られてきたモノは、母が不足をかこつていた

塩だった。マーラは思わずそれを放り棄てた。

包みには手紙も入っていた。内容は月次なものだったが、マーラは嬉しかった。

 

マーラもブーベに手紙を書いた。

マーラは自分がブーベに好意を持っていることに気づいた。

ブーベが初めて来た日、ブーベが針と糸を貸してほしいと言った時、マーラは彼の穿いたままのズボンの綻びを手早くなおし、糸の端を文字どおり糸切り歯で切ったのを思い出した。

繕いに一生懸命だった自分が可愛く思えて、思わず笑みがこぼれた。

 

その後、ブーベからは何の便りもなかった。

彼が筆無精だからなのか、郵便のシステムの脆弱さのせいなのか分からない。敗戦直後のことだからインフラの復旧もまだまだ。

村で最大の橋も破壊されたまま全く手つかずだ。

 

 

 

冬に郵便が再開してからは、毎週手紙が来るようになった。恋心は伝わってきたが、”好き”の文字はなかった。

 

ある日、ブーべがマーラを川縁の空き地に呼び出した。大事な話があると言う。

 近々フィレンツェの近くに転居し、仲間と運送会社を始める。その前に二人の交際を二人の両親に報告する。暫くは会えないかも。いまキスをしたい。

マーラはそれを許した。

 

☘️パルチザン

その日の夜、帰宅した父が言う。

「マーラ、嬉しいだろ。俺も嬉しい。娘が婚約だ。俺は承諾した。好青年だしパルチザンだ」

母が猛烈に反撃する。

「娘まで不幸にしたいのね。パルチザンなんて

疫病神よ。この家には連れてこないで。絶対に!」

 

※パルチザンとは…

 抵抗運動のために組織された非正規軍の構成員

のこと

 

 

一方的な婚約だった。マーラも腹が立ったので暫く彼を忘れることにした。

 

 

村の集会所でマーラがダンスに興じている。そこに幼い弟が伝言に来る。

「マーラ、ブーべが呼んでる」

 

ブーベは父に連れられてマーラの家に来ていた。

父はどうやらパルチザンのシンパのようだ。サポーターというか、協力者だ。

マーラはそれとなく気づいていた。

 

家に入る前に父はブーベに言った。

「マーラの母親には事件について絶対に話すなよ」

 

ブーベは素っ気ないマーラに自分の転居について話す。

その理由について話すとき、ブーベは堪らず重大な事実について彼の思いを吐露した。事件のことだ。

 

それは…。

過日、ブーベは仲間二人とミサに参加するべく教会にやってきた。

教会のソルフィ司祭は仲間の服装を理由に参加を阻止しようとした。

居合わせた憲兵のチェコラ准尉も司祭に加勢した。パルチザンへのいつもの嫌がらせだった。

ブーベたちが准尉の目を避けて広間の隅に移ると、准尉が発砲してきた。

仲間の一人が犠牲になった。もう一人の仲間がすかさず准尉を撃った。

撃たれた准尉は死亡した。近くにいた准尉の息子が父親の死体を見て半狂乱になって広間から飛び出し、ブーベが追いつく前に近くの民家に入り込む。

収拾に窮したブーベの拳銃が火を噴き、あろうことか准尉の息子が斃れた。

教会の外は大騒ぎ。黒山の人だかりになった。最悪の事態だ。

 

ブーベは憲兵隊に自首するつもりだった。しかし組織の指示は

「暫く身を隠して様子を見よ」

ブーベはこの指示に懐疑的だった。

 

 

☘️逃避行

かくしてブーべの、時にはマーラを巻き込んだ

長くて困難な逃避行が始まった。

 

マーラの父は「ブーベについて行け」という。

その途中で、ブーベの両親に会えとも言う。

 

当面の目的地ボルテッラに向かう途中でコッレという町に寄る。

しっかり者のマーラが村の若い娘に戻る一瞬だった。可愛い。

マーラは靴が欲しいと言う。それもハイヒールが。少女のような眼差しだ。

店員の勧めで蛇皮のヒールにした。笑顔のマーラ。

服もねだるがブーベは相手にしない。

カフェで軽い食事をすると、そこに例のソルフィ司祭が…。

その一方で解放委員会のメンモもいた。彼と同席する。メンモが事件について尋問する。

ブーベの「准尉の挑発にのってしまった」に対して、「うかつだったな」と諌める。

「どうすればいい?」に対して、彼も「ボルテッラで身を潜めろ」

と言い、自分が同行してもよいとも言った。

 

ヒッチハイクを覚悟していた三人だったが、バスが来た。

満員だ。乗客が騒いでいる。「ソルフィ司祭が乗っているんだ!」

「償いをさせろ!」「人殺し!」「奴を殺せ!」

マーラがメンモに尋ねる。「司祭が何をしたの?」

「大戦中、ファシストとドイツ軍に荷担し、多くの信徒を苦しめた」

乗客がブーベの姿を見て、勢いづいた。パルチザンVSファシストの構図だ。

司祭が乗客のリンチに遭うかもしれない。

ブーベは難儀する。またもや収拾のつかない困難な事態か…。

だがブーベの尽力で、何とか司祭の身柄が憲兵当局に確保された。

 

ブーベの実家。マーラはみすぼらしい家とブーベの母や姉の対応に失望する。

翌朝早くに、リドンニが来て「急用だ。ブーベが指名手配になった。准尉殺害の容疑だ」と言い、ブーベに「君を連れ出さなきゃならん」と。

 

近くの元パルチザンのアジトだった製紙工場跡に。

ブーベ「ここで憲兵を待つ(自首する)」

リドンニ「ダメだ。党の決定だ。従ってもらう」

マーラも行動を共にすることになった。

 

アジトには旅行カバンと僅かな寝具など。野宿同然だ。

不安だ。

 

ブーベがアジテーターよろしくひとり演説し始める。聴衆はマーラのみ。

ファシストを根絶やしにしてやる!

准尉は自業自得だ。死んで当然。

息子を殺ったのは頭に血が上ったからだ。正気じゃなかった。

ああいう状況じゃまともに考えられたりはできない。

 

マーラが言う。「不運だったのよ」

 

マーラは思う。

ブーベの強気の態度は不安の裏返しだ。

ずっと不安だったのだ。

だから彼を慰め、守ってあげたい。

一途で真っ直ぐで、不器用な人だから。

 

マーラ「約束して。隠し事しないと」

右手を挙げ、誓約のポーズをとらせる。

ブーベ「分かったよ」

 

夜、暗闇の中でブーベは男と会っていた。

「いとこのアルナルドだ」

マーラ「リドンニは?」

アルナルド「ブーベの家で憲兵に止められた」

 

マーラはブーベから銃を取り上げ、それを川に放り込んだ。

「危ないことはしないで」

「約束する」

「いとこは何て言った?」

「遠くに行けと言われた。後で迎えが来る」

「遠くってどこ?」

「外国だろう。でも暫くの間さ。気にするな」

「迎えはいつ来る?」

「明日の朝早く」

マーラは不安になった。

「お願い。抱いて。きつく抱きしめて」

「そうしたい。でもお互いのために、婚約する前に戻ろう」

「私のこと、嫌いになったの?」

「好きだからこそだ。君を不幸にしたくない」

「いや、私を抱いて。結婚前でもいいの」

 

翌朝、迎えの車が来る。

車の男はマーラに「君は残れ」と言う。

マーラは車に取りすがる。「手紙を書いてね!」

気丈な彼女の頬を涙がしとど流れた。

 

 

久し振りの実家だ。

マーラはホッとする間もなく、憲兵隊で取り調べを受けた。ブーべの行方についての詰問だ。

憲兵は言う。「黙秘してもダメだ。必ず見つけ出す。逮捕されれば、奴は終身刑だ」

マーラは外で待つ父に尋ねる。

「ブーべはどこにいるの?」

「ロシアだろう」

 

マーラにとって”終身刑”や”ロシア”はショッキングな言葉だった。怖い。

 また村の女性たちの同情と哀れみの眼差し。マーラにはそれも堪えた。辛い。

 

友人の口利きで近くのプレス工場で働くことにした。慣れないアイロンがけの仕事は辛かったが、気は紛れた。

住まいも実家を離れ、友人の姉の家に居候することにした。

 

 

☘️ステファノ現る

ある日、友人がマーラを映画に誘ってくれた。

1940年のアメリカ映画『哀愁』。観たかった映画だ。

映画館前で待ち合わせていると、友人には相手がおり、友人はマーラに知らない男性を紹介。友人によるちょっとした「仕掛け」だった。

マーラは当初、かなり立腹するが、結局、この仕掛けに付き合うことになる。

男性は満員の館内を埋めた観客を押しのけてマーラの席を確保してくれ、二人は恋愛映画を楽しんだ。

 

 

 

男性の名はステファノ。誠実そうで、嫌みがなかった。マーラに気を許し、何でも話す。ブーベとは違うタイプだった。

インテリで人当たりがよく、世渡りも上手そうで、何よりも安定感がある。

とは言え、マーラは自分には婚約者がおり、気を許せる立場にはない旨のクギを刺すことを忘れなかった。

 

ステファノとの2度目の映画観賞の帰りに、彼は自分の職場を見せたいと言う。それは印刷所だった。ライノタイプという装置を説明する傍ら、彼女の名前カステルッチ・マーラの活字を組み、親近感を醸した。彼は過去に詩を書いたが、近々、小説に挑み、応募しようと思っていると語る。

 

マーラは新しい仕事に就いた。ステファノの口利きで彼が勤務する印刷所での仕事だ。単純労働だったが、プレス会社での仕事よりはマシに思えた。

 

会社でのステファノはマーラに時折気遣いを示す程度だが、デート中の彼は真剣だった。マーラの話をよく聞いてくれた。ブーベのことについても、マーラの「仲間が殺されなきゃ彼も撃たなかった」に「きっと大赦があるさ」と慰めた。

また「君はワケありだと思っていたよ。若いのに陰がある」とも。

 

別の日。ダンスに興じた後、ステファノは言う。

別れた彼女は僕が求める女性じゃなかった。ただの美人さ。でも君は違う。君の眼差し、表情、動作すべてが優雅だ。君は僕の運命の人だ。

 

マーラは面食らった。「もう会うのはよしましょう。運命の人だなんて」

「いけないか?」「ええ、私は婚約しているのよ。言ったでしょ」

「寂しい者同士、いいだろ?」

「ダメよ。いけないわ」

「分かった。諦めるよ、君のために」

 

ひと息ついて「もっと前に出会っていたら?」

「いつ?」「君が婚約する前だ。もし婚約していなかったら僕を好きになっていたと思う?」 

マーラが頷く。「声を出して。僕の目を見て」 マーラは彼の目を見て「思うわ」と応えた。

 

 

 

☘️ブーべはどこに?

広場で集会があり、国民投票での共和派の勝利を予言するシュプレッヒコールが轟いた。演説用のステージの脇にリドンニの姿があった。

マーラは人目も憚らず彼に近づき、声をかけた。

「ブーべからは何の連絡もないの。もう1年も経つ。どこにいるの?」

 「ユーゴのようだ。心配は要らない。党が何とかしてくれる」

 

ユーゴ。ロシアほどは遠くない。でも…。

 

父とコッレに入院中の母を見舞った。手術後の痛みは取れたと言うが、弱っている。体をさすりながら、ふとステファノのことを思い浮かべた。ステファノなら母は気に入るに違いない。

 

彼の告白には怖気づいたが、安らぎを覚えたし、頼りたいとも思った。

ブーべを忘れてはいないが、ステファノに癒されていた。「今を楽しみたい」とふと思った。

そして廊下に立つ父の寂しげな後ろ姿も気になった。

 

印刷所で働くマーラにステファノが声をかけてきた。

「帰ってきたんだね」「元気?」「お母さんは?」「よくなったわ。私に会いたかった?」

外でデモ隊の大声がする。「サンディーニがデモをやるぞ!共和制の勝利は確実だ!」

 

ステファノがマーラに言う。「毎日君のことばかり考えていた。君への思いを断ち切ろうとしたけれど…。ムリだったよ」

「私もあなたを忘れようと…。でもダメだった」

「うれしいよ」

ステファノがマーラに顔を近づけようとする。

「やめて」

「自分の気持ちにウソをつくな」 

二人はキスをした。自然の成り行きだった。

 

 

☘️ブーべ捕まる

マーラの住まいの近くで父が待っていた。

「リドンニが待っている。ブーベが逮捕されたらしい。准尉を殺した奴もだ。二人とも拘置所にいる」

「ボルテッラの?」「ああ、そうだ」

 

リドンニが言う。「二人はユーゴを追われ、国境で逮捕された」

父が尋ねる。「大赦は?」「釈放されたのはファシストと戦争成金ばかりさ。パルチザンの命を懸けた貢献を軽んじている。結果だけで判断してキリをつけようとしているんだ」

 

「面会はしない」とマーラ。「お前のために手配した」と父が。

リドンニも「あいつは待っている。悲しませるな」

 

 

☘️試練は続く

面会を許されたのはマーラだけだった。

看守が言う。「時間は15分。席から動かずに話せ」

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りね」

「やあ」

「会えて嬉しいわ」

「俺もだ」

「元気そうで安心したわ。少し肥ったんじゃない?」

間をおいて、「私はどう?」

ブーベがマーラをじっと見る。

マーラもブーベをじっと見る。

「どこにいたの?なぜ連絡をくれなかったの?」

…沈黙の時間が流れる…

「会いたかった。別の場所で…」

ブーベが涙を拭っている。

「やめて。見てられないわ。男でしょ。しっかりして。しょげちゃダメよ。あんたはひとりじゃない。友達も弁護士もいる。信じてるわ。あんたは救われるって」

「ありがとう。泣いたのは絶望したからじゃない。君と会えたからだ。また会えるなんて…。離れてる間、ずっと君のことを考えていた」

ひと息入れて「君に尋ねたいことがある」

マーラは身構えた。

「何?」

「今も僕が好きかい? 離れてる間に考えが変わったかと…」

「なぜそう思うの?」

「変わってもムリはないから。ひとりで遠くにいると…。ひとりだと不安になる。俺はそうだった。今は大丈夫だ。こうして会えたから」

「そうよ、私がついているわ」

「また来てくれ」「許可が下りたらすぐにでも」

「会えてよかった。不安は消えたよ」

 

 

マーラがステファノと会っている。

マーラの様子がおかしい。

「悩みがあるなら言ってくれ。隠し事はダメだ。何でも相談してくれ。きっと力になれる」

 

マーラはステファノに抱きついて叫ぶ。

「結婚して!今すぐに」

マーラは尋常ではない。

 

マーラは進退窮まっていた。ブーベを忘れられたら、どんなに楽か。

でも寂しそうな彼を思うと、放っておけなくなる。彼が無罪になり、私を必要としなくなればいいのに…。

 

ブーベの裁判が開廷した。

憲兵准尉の妻の姿も見える。夫と息子の賠償問題が控えている。

ものものしい展開だ。

 

途中の休憩で、マーラはブーベと面会できた。

マーラ「友達のお陰でうまくいきそう」

これに対して、ブーベの対応は意外だった。

「友達なんてとんでもない。すべて連中のせいだ。誰も俺の迷いを醒ませてはくれなかった。

それどころか、あいつらに従ったばかりに

このザマだ。大赦の前に自首しておれば、今頃は自由の身だった。

あいつらの顔も見たくない。味方は唯一君だけだ。その君を悲しませて本当に済まない」

「謝らないで」

 

裁判が再開されると、マーラが証言台に呼ばれた。

 

 

裁判長「証人は何を証言したいか?」

マーラはうろたえた。何を? 証言について誰も事前に教えてくれなかったのに…。

何かを言わなければ…と思えば思うほど呂律が回らない。

「はっきりと、大きい声で!」などと煽られると、ますますダメだ。

やっとバスの車内でブーべが行った司祭への対応について触れることができた。しかし…。

裁判長「その件については、検察側は承知している。ほかに被告の犯罪についての証言は? ないなら証人は退席せよ」

そんな…。マーラの悔し涙が止まらなかった。

 

判決は「14年の禁固刑」だった。

 

 

 

 

☘️ブーベの恋人

マーラの声かけでステファノがやって来た。思い出の映画館の入り口付近だ。

「父とボルテッラに行ったの」

「何しに?」

「ブーベの裁判よ」

「言えばいいのに」

「ご免なさい。勇気がなくて」

「勇気がいるのかい?」

「ええ。今度こそもう会うのはよしましょう」

「何故だ? 彼に話さなかったのか?」

「話せなかった」

「彼を待つと?」

「待ち続けるわ。いつまでも。…あなたのこと忘れないわ。あんな幸せは二度と来ないかも。でも別れるしかないわ。そして自分の道を行くの。

分かって。私はブーベの恋人なの」

 

 

マーラが乗るいつもの列車がホームに着くと、そこに別便を待つステファノの姿が…。

 

 

「この辺りにいるの?」

「勤務先がこの近くに」

「結婚は?」

「している」

「よかった。前の彼女と?」

「いや、別の女性と」

 

マーラをしみじみと見つめていたステファノが思わず「君は本当に強い」と言う。

「ブーベはもっと強いわ。7年も塀の中にいて気力を失っていない。初めは大変だったけど、最近は将来も語り合うようになった」

「あと7年待つのか?」

「7年経てば私は34歳、彼は37歳。まだ子どもも産めるし結婚だってできるわ」

ステファノがマーラを再度じっと見つめる。

 

「元気で」

「じゃあね」

 

 

列車が走り始める。

マーラは自分に言い聞かせる。

ほんの短い時間だけれど、ブーベに会える。

14年と聞いた時は不安になったが、今は平気と思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独 り 言

 

🔶社会派恋愛ドラマ

本作の原作『ブーべの恋人』は実際にあった事件に基づいているという。冒頭でも触れたが、イタリアの純文学の優秀作に与えられるストレーガ賞を受賞し、ベストセラーになった。

映画化され人気を博したが、戦後の揺れ動く社会を活写しているだけに、また社会的事実が絡んでいるが故に批判の声も挙がった。だがコメンチーニ監督の演出上の試みとカルディナーレの美貌や優れた演技が功を奏し、高い評価を得た。

 

🔶カルディナーレ

チュニジア移民のイタリア人女優。現在87歳。

本作公開時は25歳。『刑事』のアッスンティーナ役が21歳のとき、『若者のすべて』のジネッタ役が22歳のとき、『鞄を持った女』のアイダ役が23歳のとき、『山猫』のアンジェリカ役が本作と同じ25歳のとき(いずれも公開時)だった。

初期のピエトロ・ジェルミをはじめ、フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティなどの監督の作品に度々用いられた。演技は確かだ。

母語はフランス語だが、イタリア語は18歳になるまで話すことはなかったといわれている。とは言え『刑事』や本作でのイタリア語をまくしたてる場面など、あの流暢な言葉遣いをいつ会得したのか…と感心させられる。

本作の主題曲は作曲者のルスティケッリの詞で主題歌になり、彼女の歌でリリースされているが、残念ながらいまだに聴く機会がない。

我が国では1964年末にザ・ピーナッツといしだあゆみが競作でシングル・レコードをリリースしている。

 

🔶チャキリス

ダンサー、歌手、俳優。現在92歳。この9月16日で93歳になるという。

チャキリスと言えばダンサー。かの『ウェストサイド物語』での彼のキレッキレのダンスや高く上げた真っ直ぐな足の先が微動だにしない光景など、これは当時の日本人のできることではないと思わせたものである。

少年の頃からダンサーとして励み、ミュージカルなどで小さな役をつかみつつ15歳から映画に出演した。21歳のとき『紳士は金髪がお好き』(ジェーン・ラッセルやマリリン・モンローが主演)に出演するが、端役のためクレジット(配役表示)はなし。翌年の『ショウほど素敵な商売はない』でもクレジットはなかった。

だがさらに7年後の1961年の『ウェストサイド…』ではダンスもさることながら、プエルトリコ系の不良グループのリーダーを演じ、その演技力でオスカーとゴールデングローブ賞で助演男優賞を獲得した。無論オープニング・クレジットではナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、リタ・モレノなどと並んで大きくクレジットを掲げられた。ジョージ・チャキリスの世界的デビューである。

本作の撮影は、その僅か2年後のことで、地味で暗い役柄を、しかも慣れないイタリア語を操っての演技だった。相当な苦労があったと思われる。

1960年代後半頃からは活躍の場を舞台やテレビに移している。

その中で来日公演を数度行っており、親日家でもある。

 

🔶ルスティケッリ

本作の主題曲については上で触れたが、作曲者はカルロ・ルスティケッリである。

彼は映画音楽作曲家として、とくに1950年代~1960年代において活躍した。

本作の『ブーベの恋人』以外にも

『鉄道員』

『わらの男』

『刑事』

『イタリア式離婚狂想曲』

『誘惑されて棄てられて』

『アルフレード アルフレード』

などがよく知られている。

 

本作の劇中に流れるメロディに主題曲とは異なるものがある。

そのオーケストレーションを担当したのはフランコ・フェラーラ。

いいメロディだ。

 

その音源は次のラッシュにあります。ご覧いただき、お聴きください。