それでは、Michael Sandelの"Why we shouldn't trust markets with our civic life"(マイケル・サンデル: なぜ市場に市民生活を託すべきではないのか?)の要約&解説です。

【要約】
全体のテーマ:アメリカにおける市場経済から市場社会への移行と、私たちの生活への影響

アメリカにおける、市場社会移行の例(その1で扱いました)
 お金で手に入れられるものの拡大(監獄の部屋、テーマパークのVIPチケット)
 市民生活でお金が左右するものが増える
 ↓
 不平等の拡大(裕福な人とそうでない人たちの間でできること、手に入れられるものの格差が広がる) 

市場社会の是非(その2、その3冒頭で扱いました)
 インセンティブとしてのお金
 例)教育
 議論:お金というインセンティブが本来の目的とは違ったメッセージを子供に与えてしまうのでは?
 経済学所の考え:市場で取引されるものの意味や価値は変化しない
 ↓
 対象が物的財貨の場合はそうだがそれ以外の場合は果たしてそうか?
 ↓
 物的財貨ではないものや社会的慣習では市場原理やお金によるインセンティブが市場に属さない価値を傷つける可能性が

「市場社会」と「私たちがどう生きるか」(その3で扱いました)
 市場や商業がものの性質や意味を変え得る
 例)教育、学習
 ↓
 市場の考え方がなじむ領域とそうでない領域はどこか当う必要がある
 物議をかもし、避けられてきた話題(人間関係や市民生活の監視)について議論する必要がある
 ↓
 市場主義の考えが持ち込まれると、裕福な人とそうでない人の生活が離れたものに
 市民が共同の生活を送る必要のある民主主義ではよくない状況
 様々な人が互いに知り合い違いを受け入れることで、みんなで共有する善が保たれる
 ↓
 市場社会への移行の問題は、経済についてではない
 私たちがどう生きるか。それはお金で買えるのだろうか?


【解説】
マイケル・サンデル
ハーバード大学の教授で専門は政治哲学。1980年代のリベラル‐コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来コミュニタリアニズムの代表的論者と知られる。

今回のtalkは彼の著作『それをお金で買いますか
(原題 What Money Can't Buy)で書かれているものをライトにしたものです。
市場主義が社会にまで広がり、お金が左右するものが増えていく中で道徳などの市場の論理になじまないが私たちの生活において大切なものが締め出されてきているのではないかという危惧がこのtalkの主題です。
本の内容についてここでは特に詳しく扱うことはしませんが興味のある人はぜひ読んでみてください


それでは市場社会とは何か詳しく見ていきましょう。

市場社会とは、
あらゆる物が商品として市場で取引される社会のことである。サンデルによるとアメリカにおける市場社会への移行はここ30年の出来事らしい。
市場は者の生産と分配の調整や、富と繁栄を築くことに関し成功を収めていた。ところが、市場価値の役割が私たちの社会生活にも大きな影響を持つようになり生活全体を支配するようになっている。

○市場社会主義の始まり
・産業革命による市場社会の出現
イギリスで18世紀末に始まった産業革命が工場制機械工業が導入された。
また農業から工業への労働力の移行によって生産力が飛躍的に高まった。
→商品生産=市場経済社会が全面化

・サッチャリズム、ハイエク等による新自由主義やソビエト型社会主義の崩壊
→「市場万能論」の考えが世情を支配するように
市場万能論:市場が資源の最適配分をもたらし、政府が手を出すより規制を撤廃し市場に任せるべきという考え。

サンデルは市場万能論が支配的な時代を「市場勝利主義の時代」と述べている。
・1980年代初頭、ロナルド・レーガンとマーガレット・サッチャーが規制緩和を進める
→1990年代までビル・クリントンとトニー・ブレアという2人リベラリズムにより引き継がれる
→2008年の金融危機で市場信仰と規制緩和が社会にもてはやされる時代は終わった。



現在、市場万能論は疑問が呈され批判されるようになっています。
サンデルによる議論もその1つと考えることができますね。

参考
マイケル・サンデル『それをお金で買いますか』早川書房、2012年
http://www.eco.shimane-u.ac.jp/nodat/ecogen/ecogen0901.pdf
http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0105dan.pdf