「流通雑感 臨時号NO.7」2024年10月20日
「流通雑感 臨時号」は、住谷ゼミのOBOGの皆さんに読んでいただこうと思って発行するものです。
臨時号とするのは、毎月掲載するわけでもなく、一定量が溜まったらなので、月に1回かもしれませんし、2~3か月に一度くらいかもしれません。その点はご容赦のほどお願いします。現在は、月1回の刊行を目指しています。住谷ゼミのOBOGの皆さんに、少しでもお役に立てたら幸いですし、私の近況もお知らせしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
*10月より「パワーリハビリ」(高齢者対象のマシーンを使ったトレーニング:週2日)に参加しています。定員15名で抽選にあたりました。とても楽しいです。スポーツ吹き矢は、先日、2級の試験に合格し、現在1級取得のために練習しています。距離も7メートルになりました。
*今回は、酒井大輔『進撃のドンキ』という本を読んだ感想文を書いてみました。とても参考になった本でした。ドンキがどうして成長したのか、少し理解できました。
1.社会・消費者について
*特になし
2,小売業について
(1)Temu、世界で爆上がり成長
(2)セブン&アイHDがイトーヨーカ堂を売却
(3)しまむら純利益最高(3~8月期)
(4)セブン&アイHDは、「セブンーイレブン・コーポレーション」へ
(5)楽天、中堅・中小スーパーとの緩やかな連携を進める
3,消費財メーカー
(1) セイコーGが好調な理由
(2) M&Aで成長する日本たばこ(JT)
4,その他
(1)インテル業績不振
(2)酒井大輔『進撃のドンキ』の感想文
1、社会・消費者について
*特になし
2,小売業について
(1)Temu、世界で爆上がり成長
中国発の格安越境電子商取引の「Temu(テム)」が世界各国で爆発的成長を示しています。テムは2022年9月にサービスを開始していますから、まだ2年ほどの企業です。それにもかかわらず、8月のアプリ利用者数は主要ECで3番目に多く、首位のアマゾンの91%まで迫っています。テムとアマゾン、どちらの利用者が多いか国ごとに比べると、世界84カ国・地域で6割強にあたる53カ国が「テム派」でした。特に、欧州では30カ国中、28カ国とほぼすべてでテムの方が人気です。
テムの人気の根源は驚異的な安さにあります。その上、攻めのマーケティングを展開しています。22年秋に北米に進出すると広告宣伝費を湯水のように使い、認知度を高めました。23年にはテムがアメリカのメタのSNSに広告を20億ドル使い、23年の最大の広告主だったと報じています。
テムのアプリをダウンロードしますと、最大9割引きをうたうセールを頻繁に実施して消費者の目を引きます。期間限定で使える特典を付与したと、一日に何度もスマホアプリにプッシュ通知を送ります。このような積極的販売促進を繰り返し、販売力を高めています。
アメリカの消費者の1日当たりのアプリ利用時間は、24年6月にテムが23分、アマゾン11分、シーイン12分とテムが大きく離しています。
各国はテムに規制をかけようとしています。アメリカでは、テムやシーインが使う小口貨物の関税免除措置を見直すと発表しました。韓国のソウル当局は、テムやシーインが販売したアパレル製品から基準を上回る有害物質が発見されたとし、該当製品の販売中止を求めています。当初は、デザインを盗用されたという話も多かったのですが、このように急激な成長をみせています。はたして、今後も急激な成長を続けるのか、各国の規制などによって、成長を止められるのか、テムの行動と各国の政府の対応に注目させられます。
(2)セブン&アイHDがイトーヨーカ堂を売却
セブン&アイHDがイトーヨーカ堂をはじめヨークベニマルなどのスーパー事業を年内にも売却手続きを始める事が10月4日にわかりました。株式の過半を売却するそうです。経営権は失うわけです。ただ、一定の株式は所有し、一定の関与は続けるようです。祖業のイトーヨーカ堂を売却するというのは驚きました。
いよいよセブンイレブンに事業を集中し、利益率を高め、企業価値を高める方針のようです。そうすることによって、アリマンタシォン・クシュタールの買収ハードルを高める狙いもあるのかもしれません。それにしても驚きました。
(3)しまむら純利益最高(3~8月期)
しまむらが9月30日に発表した3~8月期の連結決算は純利益が前年比同期比5%増の221億円と最高を更新しました。
売上高は4%増加の3305億円でした。既存店の売上高が4%増えました。インフルエンサーとコラボした商品やキャラクター商品が好調でした。また、機能性を高めた価格帯のPB「クロッシープレミアム」がけん引し、しまむらの事業の全店1点あたり単価も3%増加しました。そのため、営業利益は4%増加の314億円となりました。
今後どうなるかはわかりませんが、高価格帯のPBが好調であることは今後の業績にとって、心強い要因ですね。
(4)セブン&アイHDは、「セブンーイレブン・コーポレーション」へ
セブン&アイHDは、10日、2025年2月期の連結純利益が前年比27%減の1630億円になる見通しだと発表しました。従来予想の2930億円から大幅に下方修正したことになります。アメリカで中低所得者層向けの販売が振るわず、来期までに不採算店、約440店を閉鎖します。国内コンビニ事業も4%の減益を見込んでいます。
このように肝心のコンビニ事業は低迷していますが、セブン&アイHDはコンビニ事業に集中して企業価値を上げる方針を固めました。そのため、11日付けで「ヨーク・ホールディングス」を設立して、そこにコンビニ事業以外のイトーヨーカ堂やヨークベニマルといったスーパー事業、外食や専門店など計31社を24年度以内に移します。そして、25年中にセブン&アイHDは、「セブンーイレブン・コーポレーション」に変更するそうです。
ヨーク・ホールディングスに移した会社の株式の大半は外部企業に売却される可能性が高いそうです。
一連の大改革を行って、企業価値を高め、アリマンタシォン・クシュタールの買収提案に対抗するつもりのようです。海外展開を加速するコンビニ事業への集中を踏まえ、国際会計基準の適用基準を本格的に開始し、最速で28年度に適用されるようにするようです。そして、30年までに店舗数を10万店にする計画を公表しました。
現在、セブン&アイの手元資金は約5000億円といわれています。この資金に、グループ企業の株式の売却資金を加えると相当の資金ができます。これをどのように使うのかによって、セブン&アイの株価は変動する可能性が高いと考えます。セブンイレブンの海外展開のために使うのか、相当の金額を自社株買いに使うのか、あるいは配当に回すのかによっても株価は変わるでしょう。果して、クシュタールの買収提案の1株2700円以上にすることができるのか、興味はつきません。
(5)楽天、中堅・中小スーパーとの緩やかな連携を進める
中堅・中小の小売業者が楽天グループとの連携を深めています。購買データの活用や電子商取引の展開などで楽天から支援を受け経営改善を図っています。楽天はポイント活用などで自社の「楽天経済圏」に引き込む狙いがあります。
たとえば、コモディイイダは楽天と提携し、買い物でポイントをためたり使ったりできるようにしました。また、大量のビッグデータなどを基に日々の販促戦略などを練っています。具体的には、多くの来店客が見込まれる週末にはポイント還元額を増やし、精肉の大容量パックや惣菜の品揃えを充実させました。その結果、30代~50代の家族の来店が増えました。また高齢者向けには、年金受給日に4万円の現金を店頭の機械でチャージすると、1000相当のポイントが還元されるキャンペーンを実施しています。ポイントの獲得に熱心な高齢者の客も増えましたし、8月には各店のチャージ機の前に列ができ、一日に8億円分の現金がチャージされました
このように穏やかな連携をモットーとする楽天とのタッグは小売業者には、単独資本を維持しながらサービス向上などの改善策を進められる受け皿になっています。
楽天としては、決済手数料やコンサル料を得られる上、楽天経済圏の拡大にもつながるので、両社ともにメリットがあるようです。この動きは広がっていきそうですね。
3,消費財メーカーについて
(1)セイコーGが好調な理由
セイコーグループの業績が好調です。「欧米からの富裕層がグランドセイコーを買っている」(米山常務)と述べているようにインバウンド需要が追い風になっている事は確かなようです。国内の時計売上高に占める訪日客の比率は4~6月期に15%程度と、前年同期の10%程度から高まっています。特に50万~70万円のグランドセイコーが好調のようです。
しかし、セイコーグループが好調なのは、時計以外に「システムソリューション事業」が伸びてきていることが業績好調の要因として指摘されます。24年4~6月期のシステムソリューション事業の営業利益は前年同期比で8%増の11億円となり、33四半期連続で増収増益になっています。営業利益は前期通期で47億円と好調です。このシステムソリューション事業は決済から人工知能まで手広く手掛けており、カーシェアリング向けのシステムでは大口の顧客を持っています。
このようにセイコーグループは、時計以外にシステムソリューション事業という成長事業を持っていることが好調な理由になっています。
ただ、4~6月期のグランドセイコーの海外での売上高は前年同期より10%以上減っています。日本の円安もいつまで続くかわかりません。高級品シフトの中での需要低迷は在庫増加につながりかねません。その点が、懸念材料です。
(2)M&Aで成長する日本たばこ(JT)
日本たばこ産業は、世界中のたばこメーカーを次々と買収し、成長しています。8月にはアメリカのたばこ業界4位で紙巻きたばこ専業のベクター・グループの買収を発表しました。タバコの需要は減っていますが、愛煙家はいて、タバコの値上げも浸透してきていますので稼ぐ力は大いにあるようです。
「ベクター買収でROI(投資収益率)を改善できる。25年から同社の収益を加えられる。米国市場は売上規模で、世界2位で、収益性も高い。今回の買収でシェアが2.3%から8%まで上昇する、流通網も活用できる」(古川博政CFO)と述べています。日本たばこ産業は、事業の売上高は9割が紙巻きたばこが占めています。現在、電子タバコに力をいれていますが、2035年の時点でも紙巻きたばこは総売上高の60%以上を占める見通しだそうです。
株式市場では、JTは配当が多いので人気です。海外での売上高が多いので、円安になると株価があがります。当分、JTの株は安泰のようですね。
4,その他
(1)インテル業績不振
インテルの2024年4~6月の最終損益は、16億1000万ドル(約2300億)の赤字でした。それに伴い従業員の15%にあたる約15000人の人員削減も決めました。業績不振で時価総額は約1000億ドルと24年初めに比べて半分以下に落ち込んでいます。
業績不振の原因は、➀受託生産でかさんだ投資負担(ゲルシンガーCEOが21年に受託生産に参入する方針を表明し、その後、半導体の製造能力を強化するために多額の投資をしてきました。しかし、投資にみあう収益を上げることができずにきているのです)、➁稼ぎ頭であるCPUのシェ低下(22年のサーバー向けCPUのシェアは71%、前年に比べ10%下がっています。インテルのシェアを奪っているのはアメリカのアドバンスト・マイクロ・デバイスという企業です。)、➂生成AI分野の出遅れ。
こうした状況で、インテルは、受託生産を含む製造部門の分社化を決めました。製造の巨額投資をまかなうために、子会社化して外部から資金を調達できるようにしたのです。インテルそのものの買収などの観測もありますが、まだインテルの自己資本比率は5割を超えていますので、自分で立ち直ることもできるのではないかと思います。また、M&Aについては独禁法の高いハードルもあります。
(2)酒井大輔『進撃のドンキ』の感想文
ドン・キホーテは、エンパワーメント(権限移譲)を徹底していることで有名です。小売業ではそれを個店経営とよく言います。ドン・キホーテでは、「主権在現」(主権は現場にある)と表現しています。主権在現だから従業員やメイト(アルバイト)が好き放題にやればいいかというとそこには最小限のルールや工夫があります。
まず、なにをやるにしても「顧客最優先主義」を考えます。これはもう習慣のようになっているのかもしれません。それから買い場(ドン・キホーテでは売り場と呼びません。買い場と呼びます)作りの際は、「便利さ+安さ+楽しさ」を表現しないといけません。この楽しさはAmusementです。ですから店舗の中の空間の演出が重要になります。店内にいっぱいあるPOP(安田氏は、「POPはお客様へのラブレター」と呼びます)もこの空間の演出です。ですから、創業者の安田氏は「物を売るんじゃない。空間創造なんだ。面白い空間ができれば、ついでに物が売れるんだ」と言います。もちろん、安さは驚安価格ということで表現しています。でもドン・キホーテは、「アミューズメントを磨いてきたから、チェーン店の限界を打破し、成長を維持できた」と言われているように、買い場を楽しいものにする努力は他企業との大きな差別化になっていると思います。
また、工夫の一つは、「顧客親和性」です。店作りには想定顧客に最も近い店員が関わるべきという考え方を徹底しています。若い世代が顧客の大部分を占める店舗では、若い世代を採用して店作りから、品揃えもやってもらいます。
もちろん、少ないルールの中で自由に仕事をやってもらうわけですが、店の業績である店舗のPL(損益計算書)は毎月10日ごろに前月PLが発表されます。予算に届いていなければ、反省し、店長以下、現場で力を合わせて販売戦略を練り直します。現場に権限を委譲するかわりに、業績に責任をもってもらうという方式です。
エンパワーメントを実施する場合、クレド(信条)が必要です。そして、そのクレドを従業員に理解してもらって、全員がクレドを共有することが大切になります。
ドン・キホーテの場合、クレドは、安田隆夫氏が執筆した『源流』という本です。百数十ページに及ぶ企業理念集です。安田隆夫氏は「源流」の社内布教に取り組み、源流の浸透を持って勇退すると決めました。安田氏はドン・キホーテを『ビジョナリー・カンパニー』(長期にわたって繁栄し続ける企業の共通点とは、ビジョンと理念に基づく経営をしており、カリスマ経営者を必要としていない)にしようとしてきたわけです。
そのため、この本を全員に読ませて、考えを社内で普及させ、共通の理解を共有しようとしています。そのため、「源流伝道師」という資格を設けて、穴埋め式と論文試験をサブマネジャー以上全員に受験してもらっています。すでに、伝道師は2000人を超えています。
それでは、その『源流』の一部をみてみましょう。
《企業原理》顧客最優先主義
《経営理念》
1,高い志とモラルに裏づけられた、無私で真正直な商売に徹する。
2,いつの時代も、ワクワク・ドキドキする驚安商品がある買い場を構築する。
3,現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す。
4,変化対応と創造的破壊を是とし、安定志向と予定調和を排する。
5,果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない。
6,浮利を追わず、中核となる得意事業をとことん突き詰める。
《御法度五箇条》
1,公私混同の禁止
・職務以外の目的で会社の商品、設備などを使用する事
・職務時間を私用の目的で使用する事
・私物を直接パートナー企業から仕入れ、原価のまま購入する事
2,役得の禁止
・パートナー企業からの接待ならびに付け届け(お中元など)を受ける事
・パートナー企業からの私的な便宜、配慮を受ける事
・パートナー企業から、職務上、提供された物品を私的に使用する事
3,不作為の行為
・速やかな報告、連絡、相談を怠る事
・職務上知り得た機密及び社内の情報を漏らす事
・職務上とはいえ商品をみだりに乱用する事
・商品及び什器備品の取り扱いや保管管理がずさんな事
4,情実の禁止
・上司が私的に部下を使う事
・従業員間で金銭の貸与及び贈与をする事
・上司が部下の仲人をする事
・見て見ぬふりをして「誤った社内的な和」を守ろうとする事
5,中傷の禁止
・個人の家族や家柄、異性関係などに関して社内で噂する事
・仕事の評価を、当事者を交えず批判ばかりする事
(批判はよいが切磋琢磨すべく、本人の面前で率直に話すべきである)
しかし、これだけではありません。組織運営でも、入れ替え戦を導入しているのです。
それは「ミリオン支社長制度」というものです。100万人の商圏人口ごとに1人の「ミリオン支社長」を任命しています。支社数102。1支社が3~6店舗を管轄します。1人ひとりのミリオン支社長がそのエリアの収支に責任を持つことで、エリア全体の業績を高める経営に挑んでもらうという考え方です。年間の利益貢献度で上位に入ったミリオン支社長は高額の報酬を手にできる一方で、下位20%に沈んだ場合、新たな支社長にとってかわられます。入れ替え戦なのです。ミリオンスター制度には、支社長たるもの、部下の社員だけでなく「メイトさん」と呼ばれるアルバイト全員の名前まで、名札を見ずに言えないと失格だと言われています。
ドン・キホーテにおける競争の4条件は、➀明確な勝敗の基準、➁タイムリミット、➂大幅な自由裁量権、④ルールは最小限のシンプルなもの。上記のミリオン支社長制度も競争の4条件に沿ったものだと思います。
ドン・キホーテでは、「社員同士の懇親会で酒を提供することを禁止している」など、仕事は最低限のルールの中で自由にやっていいのですが、「御法度五箇条」のように非常に厳しい面も持っています。組織運営でもミリオン支社長制度という自由ですが厳しい運営をしています。
ワイワイと楽しそうに仕事をしているドン・キホーテですが、守らないといけない事、やってはいけないことも多いのです。従業員がそれを理解しているから成長しているのだと思います。ドン・キホーテの経営者は、事業ごとにROIC(投下資本利益率)で予算管理をしています。店舗ごと、商品ごとにROICで予算管理しています。自由にやらせながら、その一方でしっかり数値管理しているのがドン・キホーテなのです。
この本を読んで、初めて、ドン・キホーテの経営の仕方、店作りの仕方などを学びました。しっかりした丁寧な取材を基に書いた本なので勉強になりました。皆さんも、もしも興味を持ったら読んでみてください。
以上