シルバーカーのお婆さん
1年前までは本社勤務で、
通勤は電車がメインでドアツードアで片道ピッタリ2時間。
ほんとに痛勤でした。
ただ、おかげさんで定期券で、余分な出費なしに実家には行けましたので助かってました。
母は諸事情により、都会に一人暮らしです。
3年ぐらい前の、ある土曜日に実家に顔出しして、その帰りの時の話です。
暖かな日差しの中、のんびりと駅へ向かっていました。
乗車するホームは線路をまたいで向こう側。
地下道を通っても良かったんですが、
あまりにも気持ちの良い柔らかな日差しだったので、
電車をやり過ごすこととなってもよいと、
カンカンカンカン鳴っている踏切で立ち止まっていました。
何気に、向こう側の遮断機に目をやると、
シルバーカー(老人用手押し車)に手をかけたお婆さんが立っていました。
踏切(遮断機)の内側に。
え~~~~~~~~~~~~~~~!
右側を見ますと、
特急電車がこちらに向かってきているのが見えました。
お婆さんの反対側だから、大丈夫かもしれん。
左側を見ますと、
遠くに普通電車?が見えます。
あか~~~~~~~~~~~~~~ん。
周りに人はいません。私だけです。
お婆さんに、叫びました。
「じ~っと。じ~っとしとりや~!」
しゃがむようにジェスチャーしても
聞えてんのか?見えてんのか?反応がありません。
右側の特急が減速しているのが何となくわかりました。
もうしゃ~ない。
遮断機をくぐって、下りの線路をまたぎ、上りの線路をまたぎ、
お婆さんを捕まえました。
お婆さんはしゃがめないようでした。
お婆さんを捕まえながらでは、遮断機は重くて上げられませんでした。
遮断機の左右の棒の隙間を利用して出そうと、お婆さんを引っ張っていたところ、
運転士?車掌?駅員が?一人来て、遮断機を持ち上げてくれました。
お婆さんを踏切の外へ出し、ほっとしたところ、もう一人の駅員が来ました。
特急は踏切手前で完全に止まっていました。
お婆さんは、
何事もなかったように、
「間に合えへんかってん」
と言って悪びれた様子もなく、
シルバーカーを押して立ち去りました。
駅員?たちも、
お婆さんを怒ることも、駅長室に連れていくこともなく、淡々としていて、
「すんませんでした」と
林住期さんに言って立ち去りました。
そして、
特急も普通電車も通り過ぎ、警報機が鳴り止んだ踏切には、
誰もいなくなりました。
車が通り過ぎるだけでした。
柔らかな日差しの中、林住期さんがただ一人立っていました。
林住期さんひとりが、大げさやったん?
何なんこれ。