FBでKさんが案内しておられたが,混相流学会誌でキッチン地球惑星科学特集の第一弾の3論文が公表になっている.JpGUのユニオンセッションで長く継続されてきたキッチン地球惑星科学,2017-2019には地震研の研究集会が開かれた.JpGUのセッションはちょっと異色で,何時も狭い会場が満員状態,今でも2004年の寅丸さんのパンと軽石の話はマザマザと印象に残っている.特集の各論文のダウンロードは以下のアドレスから.

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjmf/34/3/_contents/-char/ja

 

 

 

今回の特集の最初は,熊谷・市原・久利・栗田「地球惑星科学の混相流ーキッチン地球科学の視点からー」. 地球惑星科学の諸現象を身近な素材でアナログ実験で見て触って楽しむ趣旨ではじめられ,JpGUでは2001~2008年,2016~でセッションが持たれているとのこと.2017-2019年には地震研の共同利用「キッチン地球科学:動手頭脳刺激実験の模索」が持たれた.海外でもAGU, EGUで多くの教育セッションがおこなわれているが自分で実験をして考えるプログラムは今からの状況が書かれている.最後の部分で,第一著者の熊谷さんが,明星大学の学生への課題としてペットボトルを用いたトリチェリの実験を各自の工夫を入れてやるよう指示して学生が独自の工夫で考察している例を挙げられていて印象に残った.

 

2番目は,桂木「片栗粉懸濁液の上を走るための粘弾性特性(衝突実験による粘弾性計測)」.片栗粉懸濁液の奇妙なふるまい,ダイラタンシー等について紹介があり,それをより定量的に理解するために鉄球を落下衝突させる実験を行った結果を紹介している.変形速度が大きくなると急に粘性が2-3桁程度上昇して固体的なふるまいになることをDST(Discontinuous shear thickening)と呼ぶ.いろんなモデルが提案されているが意外と決着は付いていない状況が書かれている.ジャミングフロントの形成,容器壁効果,など.鉄球の落下実験で高速度カメラで得られた動きを線形粘弾性(Voight)モデルで弾性率,実効粘性係数等を得ている.また緩和した後の鉄球の沈下からストークス粘性も求め,それが衝突時の実効粘性係数より2桁程度小さいことを示している.スターチ粒子の微視的な形態,サイズ分布などの影響は計算機実験で解決されていくものだろうか.あまり実験上は気にしていないように思えた.ネットで懸濁液上を走る動画がないかと思って検索してみたら簡単にあった.

ttps://www.youtube.com/watch?v=NoCdd0OL1ek

 

 

3番目は,寅丸・小川・大橋・増山「パンと軽石」.2004年の講演にその後の研究も加えていて大いに楽しめた.いずれも発泡組織が凍結されたものだが,軽石では巨大噴火で生じたものにはしばしば気泡が一方向に伸びたものが多い傾向がありそれをパンの発泡で筒内で発泡させた場合と自由空間で発泡した場合での違いについて検討している.基礎的な実験(イーストの量や発酵時間を変えた場合の発泡度や気泡数密度の変化)を行っている.円筒内発泡で作ったパンの気泡は映像では伸びており,数密度は時間とともに減少し気泡サイズは大きくなることが示されているが,Fig.8,9の気泡アスペクト比と気泡面積のプロットであまり傾向が出ていないのはちょっと不思議.プロットの仕方を工夫できないかと思ったが思いつかない.筒内発泡での気泡アスペクト比の時間変遷をOhashi Ichihara(2018)の方法で計算した結果では気泡径が小さいと表面張力の効果で時間の経過とともにアスペクト比が1に近づく.2004年の講演では最後に卒業する小川さんが「もうパン焼きはやりたくない」と云ったことが紹介され場内大爆笑だった.確かにこれだけパン焼きするのは大変そうだ.でも一度位はやってみるか.