斜長石のMgOのプロファイルをあれこれやっていたのだが,斜長石ーメルトのMgの分配をBindeman et al.(1998)を使って計算するとどうしても数倍以上低くでる.

Bindeman et al.(1998)はSIMSのデータなので分配係数の値自体の信頼性は高いと思われるが,その平衡実験は11500-1300℃,dryなので,例えば雲仙や新燃岳の噴出物(800-950℃)を扱う時は外挿になり,その信頼性は必ずしも保障されない.

Hydrousのやや低温の実験としてSisson and Grove(1993)は代表的なものだが,そのEPMA19ペア(2kb,925-1050℃)の分配係数を求めてみると,Bindeman et al.(1998)から計算される値と比べると1.1-3.3倍(平均2.1倍)になり,外挿が外れている可能性が示唆される.

同じ20年前頃,Sugawara(2000, 2001)で斜長石ー液間のMg, Fe分配が厳密に定式化されたが,そのソフトが今のPCで動かせない(?少なくとも当方は)のは残念な処だ.ただ,この元になっている実験も大半はdry,高温なものなので,どうしても含水,低温で精度良い分配係数を決めることが必要に思う.

科学の最先端からは遠く離れてしまった話題ではあるが,噴出物自体から地下で起こったことを推定するのに必要な基礎データ(分配係数,拡散係数,等々)が意外と条件が限られ,外挿すると誤差が大きい場合が多い.分野間でのデータを総合化する必要がある場合,個々の測定・観測が十分有用であるためには,そのような基礎データの高い精度が必要であるように思う.そのような基礎的なデータを出す実験を行う研究室がどんどん減ってきているのは悲しいことだ.今はグローバルなのだから世界で何処か,一番必要とする地域で実験が継続され技術が継承・発展されれば良いのだが.(年寄特有の無責任な愚痴でした)