来週から3回,教養の惑星学Bの授業がある.惑星学Bは惑星の進化について話すようだが,まあ,あまり気にせずに担当の二人の内容が整合的になればと思っています.

月の秤動が気になって,井田・中本(2015)「惑星形成の物理」の潮汐力の項を見ると,特に非対称な密度分布を持たなくても,潮汐力で変形して一面を地球に向けるようになる,とあり,以前授業で話したのは不十分であることを知った.ただ,実際には密度の非対称が効いている可能性はあると思い,月内部の密度分布に関連して,月のマスコン(mascon: mass concentration)について少し調べたら,マスコンの成因については一応,Melosh et al.(2013) Scienceで解決したことになっているようだ.

月のマスコンは,1968に見つかった重力の大きな正の異常で,その成因については大規模な衝突クレーターに伴う厚い溶岩流によるものと考えられてきたが,必ずしも定量的な議論がされていなかったようだ.

2007-2009年の日本のSelene(かぐや)では精密な重力図が得られている.2011-2012の米国のGRAILでも精密な重力図,地形図が得られ,それを元にMelosh達が衝突,回復のシミュレーションで地形や重力異常を説明することに成功している.

GRAILによる重力異常図(フリーエア異常)
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図の右側が地球側で左側が裏側.右側では赤色の大きな正異常を呈する部分がマスコン.裏側は地殻が厚くなっており,大規模な衝突クレーターでも溶岩流は乏しく,環状の重力の負異常が目立つが,これがマスコンに対応する.Melosh達の検討ではこれらのうち規模が類似した,表側の湿りの海(Humorum)と裏側のフロインドリッヒ・シャロノフ(Freundlich-Sharonov)について,形成パラメーター(衝突天体のサイズ,地殻の厚さ,地温分布など)を変化させ,衝突・回復プロセスをシミュレーションして結果得られる重力異常,地形がうまく実際と会うものを探している.いずれも直径50kmの天体の衝突で,地温勾配が大きい(30K/km)条件が最も良い結果になっている.(衝突速度は15㎞/秒に固定)

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左側は,地殻の厚さが40㎞の月の裏側での衝突の場合で,衝突後,半径300㎞近くがクレーターで落ち込んで負の重力異常になってるが,その後のマントル流動で隆起して現在の重力異常にほぼ合う結果になっている.

右側は月の表側で,地殻厚さが25㎞,この場合の方がより大きなクレーターが生じて大きな負の重力異常が生じる.この場合もマントル流動で地形が回復するが,その後に玄武岩の多量の噴出により中央部に半径150㎞程度が強い正の重力異常になる.とういことで,マスコンの中央部の正の異常,それを取り巻く環状の負の異常,さらにその外側の正の異常が再現されている.

マスコンが形成されたLHBは39-38億年前頃でまだ月内部が高温であったことがマスコン生成に必要なようだ.玄武岩の多量の噴出が遅れて生じるあたりについては何も書いてなかったが,それなりの議論がされるべきなのだろう.

マスコンで表側の海に多量に玄武岩が噴出して密度が大きくなると,そちらが地球に向きやすくなるとは思うが,それを扱った論文はだれか書いているものだろうか,まだ見つけていない.また,表側が地殻が薄くマスコンが形成されたのに対して,裏側が地殻が厚くマスコンにならなかった(溶岩流が出なかった)非対称性(dichotomy)の成因は一番の問題でしょうがががが・・・