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日本が打ち上げたかぐや(SELENE)の科学成果がどんどん印刷になっている.Scienceに昨年来5本掲載され,先週のNatureにOhtake et al.(2009)The global distribution of pure anorthosite on the moon.という論文が掲載された.

PANとは'Purest Anorthosite(純粋な斜長岩)'の略号とのこと.高分解能の分光観測から,月の至る所で径30km以上のクレーターの新鮮な斜面で斜長石が98%以上の斜長岩が同定されている.図の青四角がそれで,海(玄武岩が覆った巨大クレーター)の部分でも掘り返された部分で斜長岩が見出されている.月の場合,Naは乏しいのでCaに富む斜長石だが,そのFeO量は0.25wt%としている.そのFeOの吸収スペクトルを見ていて,空間分解能は20-60m程度とのこと.これらの観測から月の地殻(裏側で厚い)上部の3-30kmの深さでは斜長石が98%以上のPANが占めていると考えている.

地球上でも地塊にAnorthositeは存在するが,斜長石98%以上が集積するためには,玄武岩から残液がしぼりだされて(Adcumulus growth)いく必要がある.著者らは斜長石と液の濡れ角が45度でその過程が困難なので,液を残した状態での変形によって純粋化したとしているが,変形だけで数kmも物質移動させるのは困難だと思う.月のFerroan anorthositeの場合,共存する液はたいへん鉄に富むものでかつ還元的なので濡れ角が異なり,また結晶化の速度が小さい場合重い液が分離沈降して新たな液が供給されAdcumulusな成長が可能なのかも知れない.相平衡からみると,低圧なほど斜長石が単斜輝石よりも安定になり易いことがうまく働いてマグマオーシャンの上盤に純粋な斜長岩が生じた可能性が考えられる.