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(太陽の塔の下り階段の壁に書いてあるんです。素敵だ。)

 

(なんかもう彼と会った時のこと忘れちゃって

 

これで最後にします。)

 

わたしは、太陽の塔の内部で撮った写真を

 

iPadで見せた。

 

スマホだと画面が小さすぎるから。

 

彼はすぐ
 

「ああ、これは楽しいね」と、iPadに見入っていた。

 

デッサンも喜んで見ていて、このデッサンがいちばんいいかな、なんて

 

ニコニコしていた。

 

 

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「お前と一緒にまだまだ絵を見ていたいよ」

 

彼はiPadを置いて、わたしを見つめる。

 

「まだまだ生きるよ。どこまでも一緒だ。」

 

力強い声にわたしが励まされていく。

 

この人は出会った時からそうだった。

 

本当にそうなるかどうかは分からないけれど、

 

いつも肯定的で、彼の言葉を聞いていると

 

出来そうにもないようなことも、やれるんじゃないかと

 

心が上向きになっていく。

 

わたしだけじゃなくて、

 

きっと周囲の人もそうやって希望を語る彼に励まされてきたのだと思う。

 

わたしは彼を励まそうとは始めから思っていなかった。

 

彼を受け入れることがわたしにできることだと思っていた。

 

わたしたちは互いにここ数日の間、

 

出会ったころを思い出していた。

 

「初めて手を握ったときのことを思い出していたよ」

 

それはわたしも覚えている。

 

ライトアップされた噴水の側で、

 

彼はわたしの手を握り、導いてくれたのだった。

 

わたしが転ばないようにという配慮もあったと思うが、

 

彼からすれば、「よし」と思って、決心してわたしの手を取ったのだそうだ。

 

「あの時ね、絶対この子と結ばれると思ったよ。

 

自分の気持ちはもう抑えられなかったんだ」

 

わたしからすれば、すでに彼への恋を自覚していたから、

 

手を握られてうれしかったという思いはあったが、

 

まさか彼が先々のことまで決心しているとは考えもつかなかった。

 

「お前と一緒の職場だったのは2年だったけれど、

 

絶対に2年では終わらないと思ってた。

 

この先ずっと一緒にいる人だと思っていたよ。

 

なんだろう…

 

人生の楽しみ方が自分と同じように感じたんだ」

 

ああ、そうだったのか、とわたしは彼の言葉を聞いていた。

 

「そういう人でなければ、こんなに長く一緒にいられないと思うよ。

 

お前のパーソナリティも、顔も、身体も、全部好きだ、

 

大好きだ・・・」

 

彼は饒舌なので、会うたびにたくさんの言葉をわたしにくれるが、

 

大好き、という言葉は、最近よく使うようになった。

 

わたしに聞かせるというよりも、

 

言わずにはいられないという様子でこぼれ出る。

 

大好き、大好き…

 

わたしは抱きしめられて、「大好き」を全身に浴びて、

 

こんなふうに愛されたら、

 

愛し返さないではいられないでしょうよ、と

 

側を離れられない。

 

「わたしたち、今が一番蜜月だよね」

 

2000年に出会って、仲が悪かったことなんて一度もない。

 

ケンカすらしたことがない。

 

それでも、今が一番仲がいいとわたしは感じている。

 

「そうだよ。でもまだこれからだよ。もっとだよ。」

 

多分、これから大変なことが待ち受けているのだと思う。

 

わたしが想像もできないようなつらいこともきっとあるのだと思う。

 

でも、

 

わたしは目をそらさないでいよう。

 

側にいようと思う。

 

彼は戦うと言う。

 

病との共生の道を行くしかないのだとは思うが…

 

きっと、うまくいく。

 

悲観に呑み込まれ過ぎないように、

 

現実と希望のはざまで揺れ動きながらだろうけれど、

 

生きて、いかなくっちゃ。