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彼は、いつもの通りだった。

 

「来週全身麻酔で細胞を取る手術をするんだ、そして遺伝子を調べて遺伝子に合う薬で治療するんだ。戦うよ」

 

冷静に淡々と話す。

 

彼のお子さんは内科医なので、合う薬をずっと探しているそうだ。

 

でも、遺伝子もまだ判明していないし、病気のもっと細かい種類もまだ分からないので、

 

お子さんは、遅いって言っているらしい。

 

もし、進むのが早い種類のものであれば、早く治療しないとその1週間なり2週間なりが悔やまれることになるからだろう。

 

わたしが「貸したお金はもう、諦めたよ」と笑うと

 

彼は、「え? 返すよ、死なないよ」とにこにこといつも通りの笑顔になるのだった。

 

もともとメンタルは強靭な人なので、

 

本当に治すつもり(とはいっても完治はしない)だし、今までどおりの生活を続けていくつもりなのだと思う。

 

ただ、やはり、夜ひとりになると色々と考えてしまって、眠れないし、食欲もあまりないそうだ。

 

「ずっと一緒だよ。死ぬまで側にいて」

 

彼はとても強くわたしを希求する。

 

彼があまりにも強く愛するから、受け止めるわたしは、胸がいっぱいになってしまう。

 

「衰弱するのかな…衰弱する前に、たくさん僕を食べて」

 

ふと、彼の言葉に弱気が宿る。

 

当然のことだけれど、彼の心も振り子のように強く平常心であろうとする気持ちと心配で不安な気持ちとが揺れ動くようだった。

 

現在までの検査結果は、わたしに教えてくれて、確かによくはないのだけれど、まだ悲観的になるような状態でもないようで、

 

外科的な治療はできないけれども、そうなったらさすがにまずい、という状態でもないようだった。

 

ただ、入院してしまったら、少なくとも退院までは会えない、退院したとしても、会えるようになるのは、見通しが立たない。

 

やっぱりなかなか大変だ。