わたしは、先の部屋を出てしまったあの人の後を追いかけて
あの人の車に乗り込んだ。
「今はとにかく、シラバス作りが忙しくて・・・」
貴重な車の中の会話だ
あの人は、次年度新しい授業を持つそうで
1年分の授業計画を今月中に提出しなければならないそうだ
でも、なんだかんだ言って、
大学辞めるとは言わないから
それなりに楽しいこともあるんじゃなかろうか。
2-3年でやめると前は言っていたけれど
2.3年、というのは、年金受給開始に合致することに気がついた
経済的なことが仕事を続ける意味の一つなら
わたしに口出しできることはない
それから2月はいよいよ受験本番だから
それの準備も忙しいことだろう
大学の先生は、1-3月あたり、
意外に忙しかったな、と思い出したりする
あの人はとにかく、ずっと研究畑で来た人よりも
むしろ原稿を書いているんじゃないかと思う
そちらの方で忙しいのはけっこうだと思うけれど
肺炎になったら、それどころではないだろう
あの人は免疫疾患、心疾患と抱えているのだから。
美術館での対談も38℃の熱で大変だったという
わたしのその日、あまりに天気が悪いので、遠出を断念した
あの人は無理することない、と言い、
そしてやはり、体調が悪かったから、
わたしは来なくて正解だったような、
そんな口ぶりだった
その対談を録音?録画したCDなのかDVDなのかは
まだ美術館の方にあって
編集したものを送ってよこす、ということだった
「編集しなくていい、そのまま見たい」と
あの人に言ったところで、どうにもなるものではない
話したいことはたくさんあったはずだ
あの人のうちが新築されることを夏に聞いていたから
出来上がったの? とか聞きたかったはずなのに・・・
あの人は、聞けば答えてくれると思うけれど
いつだってゆっくり話す時間などないのだ
(わたしが30分遅れたのも悪かったけど)
わたしの車が駐車しているところまであの人は送ってくれて
今日はお別れのキスもなしに、わたしもすぐに自分の車に移った
次はいつなのか、相変わらず分からない
冬場は特にそうだ
去年、わたしがスリップして、ひどい目にあってからは
ますます互いに無理をしなくなった
今年の冬、天気が良くて
お互いに都合がつく日程なんて
一体どれほどあるというのだろうか
それは考えない
もう考えない、で慣れてしまった
大切なのは、今、無事に帰りつくこと。
わたしはインターチェンジの乗り口に急いだ
