令和元年司法試験再現答案 刑法 | 司法試験受験記録

司法試験受験記録

平成31年司法試験受験予定(3回目)。ロー卒。

設問1

1 甲がAに対し本件キャッシュカード等を手渡しさせた行為につき、「欺」く行為により本件キャッシュカード等を「交付」させたとして詐欺罪(刑法246条)の成立を検討をすべきか、それともAの本件キャッシュカード等を「窃取」したとして窃盗罪(刑法235条)の成立を検討すべきか。

 両者の区別は交付行為があったといえるか、すなわちAが甲に本件キャッシュカード等を手渡した時点で本件キャッシュカード等の事実上の支配(占有)がAから甲に移ったといえるかによる。

 本件についてみると、Aは甲からキャッシュカード等を証拠品として後日預かる可能性があるということしか聞かされていなかったのであるから、Aが甲に本件キャッシュカード等を手渡したのはAに本件キャッシュカード等の事実上の支配を移転させることを意図したものではないといえる。

 したがって、交付行為があったとはいえないため、以下では窃盗罪の成否を検討する。

2(1) 本件キャッシュカードと暗証番号を書いたメモは、単なるプラスチック片と紙ではなく、両者が一体となることにより預金を引き出せる地位を得られる財産的価値を有するものである。そして、本件キャッシュカード等はAが所有し占有するものである。したがって、本件キャッシュカード等は「他人の財物」に当たる。

 (2) 「窃取」とは占有者の意思に反して財物の占有を自己又は第三者に移転させるこという。

   上述の通り、Aが本件キャッシュカード等を甲に手渡した時点でAは甲に本件キャッシュカード等の占有を移転させることを意図していなかったのであるから、甲がAから本件キャッシュカード等を受取り甲のショルダーバッグ内に隠しA方から持ち去ったことにより甲は本件キャッシュカード等の占有をAの意思に反して甲に移転させたといえ、これは「窃取」に当たる。

 (3) ダミー封筒に封印をし、甲がAに対し「こちらから連絡があるまで絶対に開封せずに保管しておいてください」といった時点で、Aが封筒内に本件キャッシュカード等が入っているかを確認する可能性はほとんどなくなり、甲の本件キャッシュカード等に対する支配が確実のものになったと評価できるから、この時点で既遂に達する。

3 以上より上記行為には窃盗罪が成立し、甲はその罪責を負う。

設問2

1 前提

 甲が現金を引き出そうとした行為に窃盗未遂罪が成立することから、甲は「窃盗」(238条)犯人に当たる。そして、甲はCによる「逮捕を免れ」るために、乙と共謀の下、乙をしてCに刃体10cmという殺傷能力を持った刃物をCに示させることにより、Cを反抗抑圧状態に至らしめる「脅迫」行為を行ったといえるから、甲には事後強盗罪が成立する。

2 乙に事後強盗罪の共同正犯が成立するとの立場(以下①の立場という)

(1) 乙は甲が窃盗犯人であるとの認識の下、甲と共謀し、甲のCによる「逮捕を免れ」るために、Cに対し刃体10cmという殺傷能力を持った刃物を示し「離せ。ぶっ殺すぞ。」と言うことにより、Cに甲のショルダーバッグから手を離さなければ刃物で刺されるのではないかと思わせ反抗抑圧状態にならしめる程度の「脅迫」をしたのであるから、事後強盗罪の共同正犯に当たり得る。

(2) では、事後強盗罪は窃盗犯人であることを身分とする真正身分犯であるから、窃盗犯人たる身分を有しない乙にも事後強盗罪が成立するのか。

  この点、65条はその文言から1項が真正身分犯の成立と科刑について、2項が不真正身分犯の成立と科刑について定めるものであると考える。したがって、65条1項により乙にも事後強盗罪は成立する。

(3)以上より乙には事後強盗罪の共同正犯が成立する。

3 乙に脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの立場(以下②の立場という)

(1)乙は甲が万引き犯だと勘違いしているため事後強盗罪の故意が認められず、脅迫罪の限度で共同正犯が成立する。

(2)また、故意が認められるとしても、事後強盗罪は身分犯と解すべきではなく、乙に事後強盗罪が成立するかは、乙に承継的共同正犯が成立するかどうかで決すべきある。

 そして、乙は甲の窃盗行為(先行行為)を利用して脅迫行為(後行行為)をしたわけではないので承継的共同正犯は成立しない。

 したがって、脅迫罪の限度で共同正犯が成立するにとどまる。

4 私見

(1)乙が甲を万引き犯だと勘違いしていたとしても、乙が甲を窃盗犯人であるという認識に欠けることはないので、乙には事後強盗罪の故意が認められる。

(2)事後強盗罪は身分犯であると考えるべきであるから、①の見解同様、乙には事後強盗罪の共同正犯が成立する。

設問3

1 丙がボトルワインを投げつけたことにより、Dは加療約3週間を要する頭部裂傷の「傷害」を負ったのであるから、丙の行為は傷害罪(204条)の構成要件に該当する。

2(1) では、丙に正当防衛が成立するか。

 正当防衛は「正」対「不正」の関係がある場合に認められるものであるところ、丙と侵害行為をしていないDは「正」対「不正」の関係にない。したがって、Dとの関係で丙の行為に対する正当防衛の成否を検討するのは妥当でない。

 (2)次に、緊急避難が成立するかが問題となるところ、そもそも「現在の危難」が存在しない。

3 もっとも、故意責任の本質は反規範的人格的態度に対する道義的非難であるところ、本件において、丙はDがナイフで脅されているのを助けようと丙が採りうる唯一の手段にでたものであるから、丙を非難するに値する事情が存在しない。

 そこで、一種の誤想防衛として丙の責任故意が阻却されると考えるべきである。

4 よって、丙には傷害罪が成立せず、丙はDの傷害結果に関する刑事責任を負わない。

以上(2314文字)

 

 

※今年も再現答案を作るための強制の契機として再現をアップすることにしました(一部科目になるかもしれません)。

ちなみに刑法は去年Fでした。