めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半(よは)の月かな
世界的に有名な『源氏物語』の作者、紫式部が詠んだ一句。
物語が人間の本質をよく捉えた傑作だという評価はとても高い。
そりゃそうだろう
現代を生きる私でも、よくこんな物語が思いつくなぁと思う。
その物語が生まれた背景を知ると、知性と文才に溢れた彼女も
それ故に苦労していたのではないかな、と想像できる。
『源氏物語』を引っさげて、
天皇の中宮にお仕えして、
他の女房と比べて期待も高かっただろうから、
人間関係にも苦労していただろう。
数年前に宇治市にある宇治源氏物語ミュージアムを訪れ、講座を受けた後、
その余韻に浸りながら、ブラブラと宇治の街を散策していた。
宇治川や、その後ろの緑たちを、いつもより肌で感じることができた。
宇治十帖に出てくる、薫と姫君達の様々なシーンが目前に浮かぶようだった。
橋の西詰には紫式部像があり、その知的な顔を見ていると、
苦労などとは無縁のような気がした。
純粋に美を慈しみ、楽しみたい気持ち。
それは競争社会のせわしなさとは無縁であり、
製作者の世界を尊重しうる、一緒に味わう、ただその至福のときを共有したいために会う、話す。
あんな歌を詠んだからには、
きっと才女としてもてはやされた彼女にも、
何かしら孤独のようなものを感じるときがあったのだと思う。
なんとなくそう思えてしまって、
紫式部の寂しさを想像したら、その像が少し微笑んでいるようにも見えた。