http://hrn.or.jp/activity2/2015.2.10.%20HRN%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E8%AA%8D%E8%AD%98%E8%AB%96%E7%A8%BF.pdf
申 惠丰(HRN 理事/青山学院大学法学部教授、国際法・国際人権法)
2014 年 8 月の朝日新聞による誤報訂正をきっかけに、今日本では、慰安婦問題全体が虚構であったかのような言説が、大手を振って繰り広げられている。しかし、少しでも冷静にものを考えることができる人間なら、済州島での自らの経験を述べた吉田清治氏の証言に裏付けがなかったからといって、慰安婦問題がすべてなかったことになるわけではないことくらいは分かるはずだ。
人が拉致されるときには文書での証拠は残りにくいのであって、被害者の証言こそが重要な意味をもつ。
誤報騒動の中、日本は強制連行をしていないということを国際社会に訴えるための広報努力をしようという動きがあり、現に巨額の国の予算が投入されている。しかし、そのような無益で本質を外れたことをしている限りは、慰安婦問題が日本にとって過去のものになってくれることはないだろう。「人さらいのような強制連行でなかった場合にしても、女性を監禁して強かんしたことには変わりはないではないか」「日本は慰安所を国策として作り、運営したではないか」という疑問が依然として問われ続けるからである。過去に自国が踏みにじった女性の人権の問題を矮小化し、日本は悪くなかったと訴え続ける安倍政権の姿勢が続く限り、「女性が輝く社会」というスローガンもただ虚しく響くばかりである。
慰安婦問題をめぐり、この期に及んで躍起になって火消しに立ち回ろうとする姿は、あまりにも見苦しくまた非生産的である。
日本が戦時に行った加害行為、例えば南京虐殺については、正面から取り上げるような番組はほぼ皆無だという現状がある。日本の加害にかかわる事実を扱った映画作品(最近では、アンジェリーナ・ジョリー監督の“Unbroken”)も、「反日」のレッテルを貼られ、日本での公開は困
難となることが多い。日本の学校教育ではそもそも現代史をあまり扱わず、また教科書の記述にも、慰安婦問題を削除するなど様々な問題がある中で、テレビや映画もそのような現状であるとすれば、ますます、自国の歴史について日本人だけが何も知らないという状態が加速していくだけではないだろうか。
私は、日本の首相が、南京虐殺紀念館を訪問して真摯に謝罪の言葉を述べるような、勇気ある行動をとってくれることを期待している。