南直哉さんの小林秀雄賞受賞の「超越と実存」
仏教の本ですね。
本書は著書の強迫衝動である生死と苦悩にまつわる問題を仏教をツールにして探る、といった趣のもの。
仏教のことしか語っていないのに、何故か仏教そのものは一歩退いた位置に置かれています。
そんな不思議と言えば不思議な書物。
とはいえ、そのあたりのややこしい部分は一旦忘れて、ザッと読むと仏教の成立から伝来の歴史がわかります。
クロニクルとしてもよくまとまっていると思います。教科書的にも読めますが、そこかしこに著者の独自の観点が差し挟まれており、いわゆる仏教ガイドとは一線を画しています。
素晴らしいのは、南さんのフィルターを通して観た仏教史が、わかりにくくなるのではなく、反対に活き活きと見えてくることかな。
終盤の道元と親鸞の特殊性を語る部分がハイライトとなっており、二人の祖師の個人的なやむにやまれぬ何かが、南氏の切迫とオーヴァーラップしながら立体的にせり出してくる。
何度も繰り返し読み返したい本である。
贅沢を言えば――本当にないものねだりなのだが――、あとがきにあった韓国の名僧元暁について語って欲しかったというのがある。
一番砕けた感想を言えば、何も信じられない人のこじれた迷走の軌跡といった感もある。
しかし、言語とか文章という間接的なツールを介して受容する限りにおいては、その軌跡が非常に美しく見える。