※「これからだ」の朗読MV風にお読みください。

 


はまちゃんはちょうど3年前、「遅れてきたルーキー」として
『こぶしマグノリアーズ』にドラフト1位で入団した。

その頃、すでに同期や後輩達はプロの世界で活躍しており、
特に高校時代の親友おーだは、『東京モーニング1997』で既にエースとして君臨していた。
いつも満員のドームでスポットライトを浴びて投げるおーだが、
はまちゃんには眩しかった。

内心に秘めた悔しさをバネにして、
閑古鳥が鳴く球場をいつか満員にしてみせると、
はまちゃんは、人知れず地道な努力を重ねてきた。

そしてこの年、そんな努力が実を結び、はまちゃんは背番号と同じ18勝を挙げ、
『こぶしマグノリアーズ』をリーグ優勝に導いた。
そして日本一を懸けて、あの『東京モーニング1997』と対決することになった。

運命の第一戦は、はまちゃんとおーだのエース対決が実現。

マウンドに上がったはまちゃんは、大きなストライドから渾身のストレートを
投げ込んでいく。
キャッチャーののむさんが変化球のサインを出しても、はまちゃんは首を横に振る。
まるで魂が乗り移ったかのような炎の直球勝負に、
『東京モーニング1997』の強力打線のバットは、次々と空を切った。

「今日のあやのは今まで見たことがないくらいすごい…。
 うちの打線でも1点取れるかどうかわからないな」
おーだはベンチで独り言のように呟くと、腕のテーピングを外し始めた。

はまちゃんの快投に応えるように、おーだも多彩な変化球を四隅のコーナーに集める。
その変化球はすべてが一級品、まるで隙がない。

8回表まで両チームのスコアボードにゼロが並んだところで、アクシデントが起こる。
はまちゃんの右手人差し指のマメが潰れてしまったのだ。
指先でスピンをかけるたびに、激痛が走る。
唯一、キャッチーののむさんだけが、その異変に気付いていた。
受け取ったボールに、血がついていたからだ。

それでも、はまちゃんは直球勝負にこだわった。
最後の力を振り絞りギアを上げ、血染めのストレートがうなりを上げる。
8回裏を三者三振で切り抜けた。

0対0で迎えた9回裏、先頭打者は、さきほどレフトへあわやホームランという

大飛球を打たれているえりぽん。
「もうはまちゃんは限界だ、ストレート勝負したらやられる」
のむさんはキャッチャーマスク越しに、はまちゃんの表情を覗き込んだ。
フォークのサインを出してみる。はまちゃんは首を横に振った。
「わかったよ、はまちゃん」
のむさんは目を瞑った。そしてすべてを悟った後、目を見開いてミットをど真ん中に構えた。
「ここに来い!」

そして、はまちゃんが投じた124球目--。

「バコーン!」
えりぽんがフルスイングで捉えた打球は、暴力的な打撃音を残して、一瞬にしてバックスクリーンに消えた。

一斉にベンチから飛びだす『東京モーニング1997』の選手達。
はまちゃんは、マウンドで膝から崩れ落ちた。
足腰に力が入らず、立ち上がれない。
呆然とする意識の中で「腰が抜けるって、こういう感覚なのか」とはまちゃんは思った。
無意識に悔し涙が頬を伝った。
あやぱんとさこが、はまちゃんを両脇から抱きかかえる。

その時あやぱんが、のむさんと主審が何やら話し込んでいる姿に気づいた。

「アウト!!」
主審がやおら叫んだ。

なんと、えりぽんがホームベースを踏み忘れ、それを冷静にチェックしていたのむさんが
審判に抗議し、それが認められたのだ。

「生田さん、なにやってるんですかー!」とはるなん。
「もー、えりぽん、しょうがないなあー」とフクちゃん。
その表情は、呆れながらも、どこかこの勝負がまだまだ続くことを歓迎しているようでもあった。

そして、のむさんが可愛く舌を出し、こう言うのだった。

 

「これからだドキドキ

 

 

 

 

P.S. 最後、主役はえりぽんとのむさんだった(笑