名前は「なっちゃん」。
8月の真夏に突然現れたので、僕の母がそう名付けて面倒を見ていました。
まだ食事をしに来るだけの状態だった頃のある日、
あまり体調がよくない様子を見かねた母が病院に連れて行き、
猫エイズやたくさんの感染症とともに、腎機能が失われていることを
ドクターから告げられていました。
もう長くないだろうという覚悟の上で、家族として迎えた形だったのですが、
何度も点滴や投薬を続けたことが功を奏し、時々、驚くくらいの元気を
見せる時もあったようです。
しかしながら、感染症があることがわかっている以上、先住猫である
3匹の愛猫たちとの接触は避けざるを得ず、結果的に、玄関先と階段、
廊下の一部という限られた空間が「なっちゃん」のための場所となりました。
「なっちゃん」は、元飼い猫だったようで、食事もトイレもお行儀よくこなし、
そして、何と言っても人に対してとてもフレンドリーで、温和な性格でした。
立っていることもままならない状態のはずなのに、
人の後を追って、階段を上ったり下ったり、足にスリスリしてきたり、
見上げて人の顔をじっと見つめたり...
それゆえに、日々命の終わりが近づいていく姿を見ることが切なく、
何もできない、助けてあげることができない無力さも加わって、
ただただ、たまならく胸が締め付けられる思いでした。
せめて、少しでも温かくしてあげたい思いから、常にカイロや湯たんぽを
いつもの居場所の傍らに置いていたのですが、
それでも、玄関という場所は、12月の寒さがいっそう厳しく感じられ、
先日、段ボール箱で簡易的なお家を作りました。
使ってくれるかどうか案じていたのですが、気に入ってくれたようで、
すぐに中に入ってくれて嬉しかったです。
しかし、その頃から体調の悪化がより進んでいる様子で、
箱の中にこもって、以前のようにはすぐに出てこなくなりました。

なっちゃんのお家。すぐに気に入ってくれました。
そんな日のお昼前、箱の中を覗くと、そこにはなぜが「モグラ」の死骸が。
庭先の植え込みか、母が作っている家庭菜園の畑で捕まえて
くわえて持って来たんだと思いますが、
いったいどこにそんな力が残っていたのかと本当にビックリしました。
今思えばですが、ひょっとしたら、
「なっちゃん」なりのお礼のつもりだったのかも知れませんね。

体重はほぼ2キロまで落ち、背骨を撫でるような状態に...
助からない命とわかってはいても、放っておくことはできない、
何とかしたい、少しでも辛くないようにという思いから
懸命に面倒をみてきた母にとっての「なっちゃん」の存在は大きく、
約4ヶ月という短い時間でしたが、かつて見送った愛猫と同様に
母の心に大きな穴を空けて旅立って行ったようです。

なっちゃん、最後のカット。
よろけるように力なく座り込みながらも、ずっと人の顔を見つめています。
なぜ「なっちゃん」はノラになってしまったのか。
ノラになっていなければ、いろんな病気を患うリスクも減っていただろうし
もっと長生きできただろうに...と思うと、やり切れない気持ちになります。
本当に、本当に、心から、不幸な境遇にある猫が1匹でも減ることを
願って止みません。
快晴の青空が、なんだかとても寂しく感じる師走です。