Startin' over… -83ページ目
薄暗がりの中、純の瞳は黒いガラス玉のように光を射ていた。

思わず瞼を伏せ、まどろんでいるふりをする。この時ばかり、自分の腫れぼったい瞼に感謝した。

純はまだ見ているのだろうか。
でもそんなことどうでもいい。
きっとまだ驚きの表情でこちらを見ているに違いない。

だけど、それ以上に今は、奴に私が横にいて幸せだと感じて欲しい、そんな思いが強かった。
酒に関して底無し胃袋だと思われていたさすがの和馬も、下半身をテーブルの下に投げ出したまま眠ってしまった。
座布団を枕にし、腹に薄手のブランケットはかけていた。
夕方からどれだけ飲んだんだ。


歯を磨いている純は、居間とキッチンをうろちょろする。
奴もいっしょに歯を磨きはじめた。

新たに空いた瓶や缶を片付け、テーブルの下に転がった各自の財布、スマホ、時計、ライター、眼鏡などを持ち主ごとにテーブルにまとめる。

「電気消すよ。」

一段落ついたかと思えば、よく見るとPCがつけっぱなしになっていた。電気機器や戸締まりを確認する。


純が窓際に沿った位置で横になった。

奴は私が歯を磨き終わるのを待ち、私の寝床を確保してくれていた。


「お前どこで寝るの?」

枕を置いてくれた。
掛け布団はいっしょに使うらしい。
男数人の部屋で寝るのは初めてだ。一番安心できるのは奴の横。

筋肉質な腕でふとんをめくってくれた。
奴の横にすべりこむ。
いつもと違う感じ。
そう思ったけど、身体が近づいた途端、濡れてしまった。
すぐそばにある、いつもの幸福感。
奴が私の身体を抱き寄せる。
衣服越しに感じる奴の堅い胸板に顔を押し付ける。
思わず撫でてしまう。
キャミソールをめくり上げ、私の腰を撫で回した奴の左手は、やがて胸へと迫り、ブラ越しに揉みしだかれた。
私たちの腕はふとんに隠れている。
奴のあごが私の額にあたり、息遣いが感じられる。 最後までしようなんていう気は互いに毛頭なかったが、こんな状況下でも、私たちは普通じゃいられない。
奴の首筋や胸を撫で回しながら、いつもの体勢で寝られることに幸せを感じていたその時、純と目があった。
和馬の家に戻ったとき、うたた寝している奴とは対称的に、家主は寝床の用意を始めていてくれた。
部屋の隅に固められていたふとんであったが、いくつものマットやブランケット、座布団などが出てきた。十分に4人に行き渡る。
部屋も広いため、誰一人窮屈な思いもせずに済む。
なんというおもてなし心。
純も慣れた手つきでマットを敷き始める。
どうやら、ふとんのベストな配置の仕方が決まっているらしい。

女子に比べ、学生の男たちは毎日のように誰かの家に泊まっては酒を飲むとよく聞く。
なんで毎日のようにそんなことができるのかと不思議ではあったが、こんなに設備(笑)が整っている家があればついつい泊まってしまうよなぁ、と男の家の心遣いに感心してしまった。
男の家は汚い、と頭ごなしにけなす人もいるが、客人思いな家は、かえって男の家であることが多いのではないか?


「…ムム」
奴が目を覚まし、上体を起こした。
「おい、よけて。」
純が厚手の座布団を敷き詰める。


眠っていたせいで奴は風呂に入りそびれた。
目をこすり、一服した後、今頃になってコンタクトを外す。


和馬はウィスキーを飲み始めた。
きっと私たちが寝るまで待ってくれているのだろう。
そんなことも気づかず、もしくは気にせず、純は買ってきたカップ麺にお湯を入れ始めた。しかも特大サイズ。

私たちの夜は長い。
みんな気ままに過ごしている。
そうできるのも居心地のよさを作り出してくれている和馬のおかげであろう。