Startin' over… -2ページ目

受験ラッシュを終えて、毎日のほとんどを教室運営業務に忙殺された。

高3生、あいつも教室に顔を出すことは少なくなった。

 

あと少しで卒業、だなんてことを考えることはあっただろうか。

PCでの教室管理作業を後輩に伝える。

無機質な仕事が増えた。

のであろうか。

必死に授業手配をする。

LINE、メール、電話を駆使し、ご家庭と日程調整をする。

生徒さんの人数だけ授業がある。

また担当する講師の空き時間をなるべくつくらないようにする。

共有体勢はできつつあった。

もう私がいなくても大丈夫、そんな状態になりつつあった。

正直にIDを交換した旨を告げた。

 

「まぁこのような状況ですからね」

伊藤先生が今時の学生で安心した。

あいつには精神的なフォローが必要な時期だというのに説明は必要なかった。

 

まだ春風が吹かない時期の教室外の階段踊り場。

幾度となくここで伊藤先生と話し合ってきた。

「どうしますか?鬼電します?」

「うーん、でもこの状況じゃ出ないだろうし」

 

教室の中から私を呼ぶ声が聞こえた。

「先生、電話です」

あいつのお母様からだった。

 

結局すべり止めは受けず、唯一受かったK大学に進学することになった。

 

 

お母様によると、目指した結果ではなかったが本人は納得しているとのこと。

ただ2年にわたりあいつを精神的にも金銭的にも支えたお母様にとってはもやもやしたものが残って無理もない。

 

翌日K大学に100万近い入学金を振り込んだとお母様から連絡があった後に、あいつからLINEがあった。

 

「追加合格しました」

私の母校だった。

「もういいです。受けません。」

直後にLINEが送られていた。

重要共有事項だ。
ただ、LINEの交換は禁止事項。
だけど伊藤先生には言わなければいけない。

「どうでしたか。」
「もうだめみたい。」
「もう一回かけますか?」
「うーん。」
「ご家庭に電話しますか?」
「そうだね、でも今かけたら塾からだってわかってるから。」
「切りますね。」
「だね。」

「伊藤くん。」
「はい。」
「実はね。」