梅雨は中休みになったのだろうか。
〈恋愛なんてする資格は無い〉
脳裏によぎる。
女だと見られないように頑張るし、自分が女だと感じないようにしていた。
元々土木作業だろうと鉄筋の組み立てだろうと平気なたちだ。むしろ作業服を誇りに思う。
晩飯の準備の手際もよくなってきた。
ハンバーグはそこそこの味だった。地元産たまねぎのおかげである。
着信…
この時出ていなかったら、もっといい未来が待ってたのかな?
―2011.3
冷帯気候の春に桜は必要無い。灰色の海と寒空、枝が剥き出しになった木々がそびえる山々、その間を覆う残雪。
しかし風はやさしく、水蒸気をたたえている。
私はあと数日でこの澄んだ冷涼な空気から引き離される道を選んだ。
自分で選んだんだ。
しかしムシャクシャする。オンボロマニュアル車のクラッチを踏んだ。
慎吾のこと、頭から引き離す必要が?身体の一部として彼が焼き付いている。
「もうどこへ行こうと、慎吾以外は愛さないよ。」
何度そう言っただろうか。慎吾がいるから、この土地を離れたくなかった。
去年の秋頃、夜中にふと目が覚めては泣いていた。
二重にある窓の外の、ナトリウムライトのオレンジが、そのたびにゆがんで見えた。
慎吾が側にいてくれないと、私は自分を保てない。それなのに、それなのに、。
二日前に、彼が今までにないくらい強く私の頭を抱きしめた。
彼の身体から、「抱くのがこれが最後になるかもしれない。」
そんな思い故の力強さなのではと思うと、寂しさを通り越して怖くなった。
―4月初め。
格安航空機の小さな窓から自分が生まれ、それまで足をつけていた大地を眺める。
徐々にスピードが上がる。まだ葉をつけていない山の景色、無数のたくましい枝々のえんじ色が美しい、ずっと見ていたい、でもぼやける。
〈引き離さないで!〉
浮いた。
涙。
肉体から魂が抜けたときも、こんな感覚なのだろたうか。
穏やかな日差しに照らされていた。
〈こんなにも雄大だったんだ。〉〈ありがとう…〉
自分を包んでくれていたものの大きさを、離れることで初めて知った。
慎吾は言った。
「ちゃんとした彼氏つくりな。俺は幸せにしてやれない。」
彼は来月、結婚する。
冷帯気候の春に桜は必要無い。灰色の海と寒空、枝が剥き出しになった木々がそびえる山々、その間を覆う残雪。
しかし風はやさしく、水蒸気をたたえている。
私はあと数日でこの澄んだ冷涼な空気から引き離される道を選んだ。
自分で選んだんだ。
しかしムシャクシャする。オンボロマニュアル車のクラッチを踏んだ。
慎吾のこと、頭から引き離す必要が?身体の一部として彼が焼き付いている。
「もうどこへ行こうと、慎吾以外は愛さないよ。」
何度そう言っただろうか。慎吾がいるから、この土地を離れたくなかった。
去年の秋頃、夜中にふと目が覚めては泣いていた。
二重にある窓の外の、ナトリウムライトのオレンジが、そのたびにゆがんで見えた。
慎吾が側にいてくれないと、私は自分を保てない。それなのに、それなのに、。
二日前に、彼が今までにないくらい強く私の頭を抱きしめた。
彼の身体から、「抱くのがこれが最後になるかもしれない。」
そんな思い故の力強さなのではと思うと、寂しさを通り越して怖くなった。
―4月初め。
格安航空機の小さな窓から自分が生まれ、それまで足をつけていた大地を眺める。
徐々にスピードが上がる。まだ葉をつけていない山の景色、無数のたくましい枝々のえんじ色が美しい、ずっと見ていたい、でもぼやける。
〈引き離さないで!〉
浮いた。
涙。
肉体から魂が抜けたときも、こんな感覚なのだろたうか。
穏やかな日差しに照らされていた。
〈こんなにも雄大だったんだ。〉〈ありがとう…〉
自分を包んでくれていたものの大きさを、離れることで初めて知った。
慎吾は言った。
「ちゃんとした彼氏つくりな。俺は幸せにしてやれない。」
彼は来月、結婚する。
確かに誘ってきたのは奴の方だ。だが奴は元々沙那さんの友達。
いつも一緒に行動する女子グループから、私や奴、沙那さんらは、喫煙コミュニティと呼ばれている。
沙那さんには彼氏はいないし、奴にそのような感情を抱いてるとは思えない。
むしろ、もう一人いつも一緒にいる、長身で黒服のようなオーラを持ち無口だが根は優しい和馬と一緒に歩いていることが多い。
しかし何だか抜け駆けしたような気まずさがある。
彼女は火をつけたばかりのヴァージニアスリムスを、ステンドグラスの灰皿に置く。
「で、どんなこと話したの?」
客観的に答えるしか無かった。
「日経論(日本経済論の授業)とか、貧困問題、電力、就活、それ絡めて不況とか。すごくダイナミックな視点から話すんですね、新鮮でした。私はいつも低所得者層の視点からもの見るから。あとはどこのじゃがいもが一番おいしいかでケンカしました、そこだけは私譲れなくて…。」
すべて本当のことだ。ほとんどすべての時間、話していたのは奴、聞いたりさらなる話題を引き出したのが私。それくらいが一番楽しい。
ただ、奴が昔年上の男に彼女を寝盗られタバコを吸いはじめたという話は伏せておいた。
沙那は再びヴァージニアを指に挟み、細く煙を吐き出す。
「かーーっこつけるもんだなーー、アイツ。」
沙那のその言葉が何を意味したいのかわからなかった。
学年は上だが、3つ年下の彼女は、いつも私より大人の世界を経験しているのでは、と思ってしまう。
掘りの深い顔立ちの意思ある瞳から向けられる視線によって、すべてを見透かされてるのではないか。畏敬の念を持たずにはいられない。
ティラミスが運ばれてくると、まだ長いままのヴァージニアを灰皿に押し付けた。
「おいしいーーー。」
ソルティドッグの塩が薄くて、物足りなかった。
いつも一緒に行動する女子グループから、私や奴、沙那さんらは、喫煙コミュニティと呼ばれている。
沙那さんには彼氏はいないし、奴にそのような感情を抱いてるとは思えない。
むしろ、もう一人いつも一緒にいる、長身で黒服のようなオーラを持ち無口だが根は優しい和馬と一緒に歩いていることが多い。
しかし何だか抜け駆けしたような気まずさがある。
彼女は火をつけたばかりのヴァージニアスリムスを、ステンドグラスの灰皿に置く。
「で、どんなこと話したの?」
客観的に答えるしか無かった。
「日経論(日本経済論の授業)とか、貧困問題、電力、就活、それ絡めて不況とか。すごくダイナミックな視点から話すんですね、新鮮でした。私はいつも低所得者層の視点からもの見るから。あとはどこのじゃがいもが一番おいしいかでケンカしました、そこだけは私譲れなくて…。」
すべて本当のことだ。ほとんどすべての時間、話していたのは奴、聞いたりさらなる話題を引き出したのが私。それくらいが一番楽しい。
ただ、奴が昔年上の男に彼女を寝盗られタバコを吸いはじめたという話は伏せておいた。
沙那は再びヴァージニアを指に挟み、細く煙を吐き出す。
「かーーっこつけるもんだなーー、アイツ。」
沙那のその言葉が何を意味したいのかわからなかった。
学年は上だが、3つ年下の彼女は、いつも私より大人の世界を経験しているのでは、と思ってしまう。
掘りの深い顔立ちの意思ある瞳から向けられる視線によって、すべてを見透かされてるのではないか。畏敬の念を持たずにはいられない。
ティラミスが運ばれてくると、まだ長いままのヴァージニアを灰皿に押し付けた。
「おいしいーーー。」
ソルティドッグの塩が薄くて、物足りなかった。