教室が開かない。
気温がいつもより高くないのが唯一の救い。
「ねぇ、動物好き?」
「うん、好き。でも毛ついてるのは嫌だ。」
「なして?」
「猫くらい距離とってくれるならいいけど。あんまりべたべたされたくない。」
十分君は犬だと思うけど。
「そう、かわいくない?例えばうさぎとか。名前呼んだら走ってくるんだよ。」
「うちのめだかだってエサやるとき寄ってくるよ。」
比較になってるのか微妙。
「そういえばさ、behindって裏なの?」
「え?」
「野球で。」
「あーそっちね。」
慌てて辞書を取り出す。
何度も言うが開室前。教室が開かずに非常階段に並んで座っている。
「うんとねー。」
初めて知った。behindに”裏”という意味は無かった。
もちろんfrontに”表”という意味はない。
どうやら表はtop、裏はbottomとのこと。
「だそうです。」
「へー。」
勉強になりました。
またアニメの話に戻る。
「なんかね、日本のオタク文化で嫁ってあるじゃん。
あれwivesって紹介されてたよ。」
「へー、そうなんだ。おもしろいね。」
「ね、複数形なの。」
「へー、じゃああなたにも嫁いるの?」
「いない。いや、そういうのじゃない。そういうオタクじゃないし。
オフ会行ったけど、リュックにチェックシャツに眼鏡ってのばかりじゃなかった。
普通の人もいっぱいいた。」
別にいいじゃない。オタクだって。
「へー。それじゃあそういう典型的なオタクスタイルはいなくなっちゃうのかなー。
寂しいなー。」
「多分なくならないと思うよ。」
「そう。30年近く前にはnerdが世界をつくるって予想されてたけど、
オタクの次は何が来るんだろうね。」
「ね。なんでロックが廃れたの?」
「うーん、体制に反抗する象徴だったのに、気付いたら金持ちになったの見て
みんな離れてったって分析してる人いたな。」
「反権力が権力持ったら恐いって話?」
前回の現代文の授業内容だ。覚えてやがる。関心する。
「確かにそうかもね。」
「来ないね。」
「遅いね。」
「ねぇ、日焼けした?」
「そう。」
「うん、髪。」
「これ6月くらいに染めた。」
「あれ、カラーリングしてたの?」
「うん、染めてるよ。」
「明るい地毛かと思ってた。」
「自分でやったらさ、こっちの上の方だけ明るくなって、
横黒いまま、これ。」
かきわけて見せてくれた。
左耳の上の部分。
確かに他の部分と比べて暗い。
「どれ、これかい?」
触れてしまった。
「ほんとだ。黒い。」
「よく地毛って言われる。」
「これ何色に見える?」
「うんとねー、光当たってたらちょっと茶色いけど。」
痛んだ髪の毛を日に当ててみた。