0ベクトル~2 | Startin' over…
もうすでに酔いは醒めていた。

奴がうちの前まで送ってくれた。終電も無いし歩いて帰るつもりだろう。地元じゃ今は暴走運転のピークタイム。(体だけ)大人の男といえども、この道路が狭い土地を歩いて返らせるのは少し心配であった。

「お茶でも飲んでいき」

「男性のお客さん第一号だからねっ。」
いつしか敬語を使わない間柄になっていた。
そして部屋のドアを開ける。
〈しくった!!〉
うちの下駄箱は小さい。それゆえ、乱雑に置かれた安物パンプス、サンダルたちが、ワゴンセールのように狭い玄関を占拠し、30センチ弱の男の靴を置く余地はなかった。
「あーなんま最悪、ごめんね、今片付けるからさ」
「いっぱい靴持ってるねーー」奇抜な柄の靴どもが新鮮なのだろうか?今日も不本意ながら、オシャレをしていったつもりは毛頭無いのに、蛇柄のインナーとインドっぽいサンダルが誉められた。半数の人が私のセンスを好まないくらいが個性的でちょうどいいと思ってる。そんな奴だって、財布、時計、ジッポなど決して派手では無いが重厚感があり洗練されている。きっとこの小物たちも、奴のキャリアアップと共に深みを増していくのだろう。たった数日前まで、不透明な塩化ビニールのようなチャラ男にしか見えなかったが、今奴は艶消しした革であるように思う。

適当に靴を積み上げ奴を上げてやり、インテリアのイの字も無い殺風景な居間に案内した。
うちにはベッドが無い、椅子も無い、テーブルはやっとこの前買った。辛うじて座布団は、100均で買ったものが一枚ある。

落ち着かないのだろう。ペットショップから初めて家に連れてこられたわんこのように、奴はキョロキョロ部屋を見回す。
「角瓶でいい?コップさ、プラスチックでしかも氷3つしかないけどいい?」
「いいよ、いいよ。」
奴は笑顔で答える。そして何かを探しはじめ、
「煙草吸っていい?」
「ベランダでだけどいい?」玄関からでかい革靴をベランダに運び、湯呑みで自分用の氷無しハイボールをつくった。

レースカーテン越しに、ワイシャツ姿の奴が見えた。おかしなコップの組み合わせと共に、私も外へ出る。