Salvage 0 | HOWLING NUTS!! =叫ぶ馬鹿野郎節=

Salvage 0

下北沢という街に「一番街」という商店街があり、
その中ほどにある雑居ビルの3階にその事務所があった。
世間の何にも役に立たない、自分達の好き勝手をする為、住所と居場所を確保する為に存在した、縦長の二十坪に満たない部屋。
その前を通るたびに思い出すことは多々有る。
遊びのような仕事、楽しみであったあらゆる危機、仲間の俺のケツの毛の数さえ知っていたのではないか、というほどお互いべったりだった。

ある時、そんな日日も、とうとう消滅する。

そのしばらく前に、仲間の一人が俺達の金、というか俺の金を持って消えた。そいつは不世出のギタリストで、一時期、新宿を根城にし、今現在も現存するバンドに在籍していたヤツで繊細且つ破天荒一日中楽器を離さないギタリストらしいヤツだった。やっと、表に帰れるかという矢先の事だった。その後しばらく、俺たちに起こった共通の出来事と比べると、別段なんとも思わないが、人に言わせると、ある種の不幸を背負わされる事になり、仲間も散った。

ほぼ、もうどうでもいい事になった辺りに、仲間だった他の男から彼が見つかったと連絡が入った。俺はどこにいるかは調べて知っていたが、他の仲間も新しい生活があったし、いちいち追うとは思っていなかったので、知らせていなかったので、探しつづけていた事を知り、少し驚いた。
俺自身、仕事が忙しくなっていたし、彼が満足していればそれで良いと思い、追わなかった。
他の仲間は、彼が戻ってくれば、また何とかやれると思って探していたらしい。希望を持っていた事が意外だった。
だが、希望は彼の発見と同時に泡と消えた。
海を渡った彼は、とうとう日本に戻る事は無かった。
遺品のギターはチャイニーズの女が持っていったらしい。向こうに行っていた仲間が言うには、泣いてギターを離さなかったというから、一緒に暮らしていた女か、よっぽど金に困っていて前から狙っていたんだろう。あの黄ばんだギターももうこの世に無いかもしれないが、もう全てどうでもいい事だ。

そんな事を思いながら、Aサインバーの前に立つ。そういえば、あの時は未だこの店も無かった。この店ももう出来て随分経った。扉開いてギョッとする。奥の席に知った顔がいた。
今日は特に顔を合わせたくない女だ。
というか、今日はもう誰とも話したくない。
バーテンの女性に意味の無い笑顔を見せて回れ右し、家路を急ぐ。

最寄駅に着くと案の定降り出した。
傘を持っていないが、今日は濡れるにはいい日だ。

雨で濡れたシャツの襟が、風で頭をもたげた。