ドナルド・トランプ大統領による関税を通じた経済へのいわゆる「静かな戦争」とは、特に最初の任期(2017~2021年)において、政権が関税を経済兵器として積極的かつ型破りに利用したことを指す。この戦略は、数十年にわたる自由貿易を推進してきた米国の政策からの大きな転換点となりました。

 

関税の内容とは?

 

トランプ大統領は主に以下の製品に関税(輸入品への課税)を課しました。

 

・中国製品;米中貿易戦争中に3,600億ドル以上の輸入品。

・鉄鋼とアルミニウム;米国の生産者を世界的な競争から守ることを目的としており、カナダやEUなどの同盟国に打撃を与えました。

・特定の製品; 洗濯機、太陽光パネル、自動車部品など。

 

なぜ「静かな戦争」と呼ぶのか?

「静かな戦争」という言葉は、次のような意味合いを暗示している。

 

それは軍事的なものではなく、経済的なものであること。トランプ氏の行動は、武力ではなく経済的な手段で各国を標的としていた。

それは政策文言の裏で展開され、その長期的な影響について国民が十分に理解していないことも多々あった。

アメリカの利益を守ると謳われていたにもかかわらず、消費者、農家、そしてアメリカ企業にとって隠れたコストが発生した。

 

トランプ氏の関税戦略の目標

アメリカの産業と雇用を守る

・アメリカの貿易赤字を削減する

・貿易相手国に「不公平な」慣行(例:中国による知的財産権の窃盗や技術移転の強制)を改めさせる。

 

経済への影響 ;「戦争」のパート

1. アメリカの消費者と企業へのコスト

関税は輸入品に対する税金であり、企業は通常、そのコストを消費者に転嫁する。

農家、特に大豆生産者は、中国の報復関税によって打撃を受けた。

 

2. 市場の不確実性

貿易摩擦は金融市場を揺るがし、サプライチェーンを混乱させた。

 

3. 世界的な報復

他国も関税で報復し、米国の輸出をさらに圧迫した。

 

4. 世界経済の成長鈍化

貿易戦争は、COVID-19パンデミック以前から、2019年の世界経済成長の減速の一因となっていた。

 

効果はあったか?

 

結果はまちまち;

・鉄鋼など一部の産業は短期的な利益を得たが、下流のユーザーや消費者には負担がかかった。

・中国との貿易赤字は大幅に縮小しなかった。

・米国の製造業は減速し、回復という目標に反した。

 

要約:

トランプ大統領による関税を通じた経済への「静かな戦争」は、特に中国との貿易関係を再構築することを目的とした保護主義への戦略的転換であった。ナショナリズムと自立を掲げる旗印の下、混乱と経済摩擦を引き起こしたが、その効果については依然として議論が続いている。貿易不均衡を浮き彫りにする一方で、物価高騰、経済報復、そして世界市場の不安定化も引き起こした。

 

以下はロイターのJamie McGeever氏による記事の引用です。

 

「相互関税」による市場混乱、米国の信頼喪失という大きな代償 (Jamie McGeever 2025年5月15日午前 7:16 2025年5月15日更新)

 

5月13日、トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争による不確実性の霧は、長期的な経済的影響に対する疑念は残っているものの、突然晴れつつある。

[オーランド(米フロリダ州)13日 ロイター] - トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争による不確実性の霧は、長期的な経済的影響に対する疑念は残っているものの、突然晴れつつある。トランプ氏が「解放の日」とうたって貿易相手国への適用を表明した「相互関税」がもたらした混沌と混乱は何だったのだろうか。

1980年代から一貫して輸入品に関税を課すことを提唱してきたトランプ氏は、昨年の大統領選中に輸入品の関税を大幅に引き上げる意向を明確にした。「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は、関税が連邦政府の歳入を増やし、米国の製造業を活性化させ、膨れ上がった貿易赤字を減らすのに役立つと舌鋒鋭く主張した。

トランプ氏の政策が経済的な妥当性があるのかと異を唱える人はいても、正直に言えば同氏が発言した通り実行したことに驚く向きはいない。しかし、トランプ氏の熱烈な支持者の一部でさえ、同氏の戦略と実際にやったことに疑問を抱いている。

果たして経済と市場の混乱をあおり、米国の貿易相手国に最大限の影響力を行使し、その後の貿易交渉で米国に最も有利な条件を確保することが目的だったのだろうか。

 

そうかもしれない。短期的な大混乱は確かに生じ、トランプ氏が「解放の日」を宣言した後の3日間で米国株の時価総額は6兆ドル相当も吹き飛んだ。ところが、もちろんおじけづいて保有株を手放した投資家を除けばだが、取引が進むにつれて失われた時価総額は帳消しになってきた。

しかしながら、結局のところ数週間前に発表された極端な数字よりもはるかに低くなる追加関税が、米国の貿易赤字に有意な影響を与えるほど重要なものになるかどうかは不透明だ。

財政を見ると、今年に入ってから発表された全ての関税は2026―35年の10年間に連邦政府の歳入を2兆7000億ドル押し上げると試算されている。

だが、この数週間の混乱は国内総生産(GDP)の0.1%に当たる年間300億ドルを押し上げるのに値するものだったのだろうか。

もちろん2兆7000億ドルという金額は軽視できないが、それを生み出すのにはコストがかかる。イエール大予算研究所の試算によると、トランプ氏による追加関税は25年の米実質GDP成長率を0.7%ポイント押し下げ、米国経済を恒常的に0.4%ポイント縮小させ続ける。エコノミストらは、全米での商品価格の水準も恒久的に高くなるとみている。

一般的な見方では、世界平均の実効関税率は13―18%の範囲に収まるだろう。これはトランプ氏が元々表明していた計画より10%ポイント低下するものの、依然として第2次世界大戦前以来の高水準だ。昨年末時点の実効関税率の2.3%を大幅に上回る。

一方、米国の消費者と企業の信頼感指数は過去最低水準まで落ち込んでおり、消費者のインフレ期待は過去数十年間で最高水準にある。これらの指標は今後数カ月以内に改善するかもしれないが、支出や投資の大部分は不確実性のために保留されており、近いうちに元に戻る可能性は低い。

 

<消えないダメージ>

おそらく最も重要なことは、資産価格が回復したからといっても米国への信頼感に対するダメージが消えたわけではないということだ。

トランプ氏が「相互関税」で示した関税率の背後にある方法論を覚えているだろうか。世界で最も貧しい国々に最も高い関税を課し、主に住んでいるのはペンギンだけの凍った島々に関税をかけた。これは多くの人々から嘲笑され、トランプ政権の本気度に疑問符が付いた。

 

米国を信頼できる相手国と受け止める見方は明らかに失せている。HSBCの為替アナリストらは13日、「信頼を築くのには数年かかるが、壊れるのは数秒間で、再構築するには永遠の時間を費やす」と指摘した。

トランプ政権は、風評被害をいくらか修復しようとしているようだ。ベセント財務長官とグリア通商代表部(USTR)代表は、ラトニック商務長官やナバロ大統領上級顧問(貿易・製造業担当)のような関税強硬派ではなく、スイス・ジュネーブでの中国との貿易交渉を率いたことは注目に値する。

だが、米国の信頼性を完全に回復させることは直ちにできることではない。そして米国金利、ドル相場、米国資産全体に対する長期的な影響は重大になる可能性がある。

つまり現在の状況は、トランプ氏が追加関税を公表しなかった場合に比べて米国の経済成長が減速し、物価が上昇し、不確実性はさらに深まる可能性が大きい。

これに対し、もしもトランプ政権が最初からより現実的で、対立の少ないアプローチを取っていた場合、これほどの代償を払うことになっていただろうか。

米国が受けた傷はやがて癒えるだろうが、傷跡は長く残るかもしれない。

 

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。)