半導体製造部門を復活させるための日本の戦略は、いくつかの主要分野に重点を置いている。

 

政府の支援と政策イニシアチブ: 日本政府は、半導体産業を活性化させるための政策形成に積極的に関与してきた。これには、研究開発(R&D)への多額の投資、国内外の半導体企業を誘致するための補助金やインセンティブの提供、官民間の協力関係の促進などが含まれる。

*イニシアチブ(initiative)は、「主導権」という意味がある言葉で、ビジネスシーンにおいては、率先して行動するといった意味で使われることが多い。 「主導」や「実行力」とも訳されるイニシアチブをとることは、ビジネスを円滑に進めるうえでも重要な力となる。

*インセンティブは、人々の意思決定や行動を変化させるような要因、報酬のことをいう。誘因とも訳される。

 

先端技術への投資: 日本は最先端の半導体技術の開発に注力している。これには、5nmや3nmノードなどの先端製造プロセスへの投資、フォトリソグラフィーのような分野の能力強化、量子コンピューティングやAI専用チップのような新興技術への注力などが含まれる。

 

サプライチェーンの強化: 日本は国内生産能力を増強することにより、半導体サプライチェーンの確保と安定化を目指す。これには、新たな製造工場(ファブ)の設立や既存工場の拡張、さらにはサプライヤーや支援産業の強固なエコシステムの開発が含まれる。

 

戦略的パートナーシップとコラボレーション : 世界的な半導体企業との提携は、日本の戦略の重要な部分である。これには、最新技術や市場機会へのアクセスを得るための合弁事業、技術共有契約、国際的企業との協力が含まれる。

 

人材開発と人材育成: 半導体産業の成長を支えるため、日本は教育と訓練プログラムに投資している。これには、大学や技術研究所における専門カリキュラムの開発や、半導体工学および関連分野の優秀な人材を惹きつけ、維持するためのイニシアチブの構築などが含まれる。

 

国内企業の活性化: この戦略では、資金援助、合併・買収の促進、技術革新の奨励を通じて、日本の既存半導体企業を活性化する。また、日本の半導体企業の国際競争力を強化する取り組みも行われている。

 

国家安全保障とレジリエンスの重視: 半導体の戦略的重要性に鑑み、日本は海外半導体ソースへの依存度を下げることで、国家安全保障の強化にも注力している。これには、重要技術とインフラの確保、半導体サプライチェーンの回復力の確保が含まれる。

*「レジリエンス(resilience)」とは「回復力」「復元力」「弾力」などと訳されており、心理学においては「精神的回復力」を表す用語。

 

これらの分野に取り組むことで、日本は世界の半導体市場における主要プレーヤーとしての地位を再確立し、半導体産業における持続可能で競争力のある地位を確保することを目指している。

 

 

Rapidus株式会社(ラピダス、英語: Rapidus Corporation)は、日本の東京都千代田区に本社を置く半導体メーカーである。

2022年(令和4年)8月10日に個人株主12人により設立され、設立時の代表取締役社長はウエスタンデジタル日本法人の社長を務めた小池淳義、取締役会長に東京エレクトロン前社長の東哲郎が就任した。同年10月31日に日本の大手企業8社から73億円の出資を受けた。工場は北海道千歳市に建設中であり、2027年3月にプロセス・ルールが2nm以下の先端ロジック半導体の開発・量産を行うことを目指しており、そのための経済産業省の研究開発委託先として同年11月11日に採択されている。

社名はラテン語で「速い」を意味し、社長の小池淳義が命名した。ロゴマークは富士山をイメージしている。

日本の半導体産業は1990年代以降に凋落したが、半導体が経済・社会のデジタル化を支え、安全保障上も重要であるとの認識が2020年代にかけて高まり、各国は性能向上と自国および友好国内での生産を重視するようになった。第2次岸田内閣が2022年(令和4年)6月7日に発表した骨太の方針の中で、次世代先端技術の開発を行う民間企業への支援を検討することや、2020年代後半に次世代半導体の設計・製造基盤を確立することなどが盛り込まれた。

また、ラピダス設立の後、10月3日の第210回国会における岸田文雄首相の所信表明演説の中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)に対して官民の投資を促し、日米連携による次世代半導体の技術開発・量産化を進めていくと表明していた。経済産業省は、5月に合意した日米の半導体協力基本原則に基づいた両国間での共同研究を見据え、次世代半導体研究を行う組織として「最先端半導体技術センター(LSTC)」を設立することを決定している。これにより研究開発拠点としてのLSTC、将来的な量産製造拠点としてのRapidus、両輪での日本の次世代半導体量産基盤の構築を目指すとしている。

2022年の半導体不足に伴う補正予算によって、経済産業省および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募を行ったポスト5G通信システムの基盤強化に関する先端半導体開発委託事業に応募し、11月8日に採択された。これにより、政府から700億円の支援を受けることとなった。

 

追補

 

次世代半導体の特徴

半導体は従来、シリコン素材を主体として製造されてきた。シリコン素材は電流制御のしやすさが魅力である反面、発熱のしやすさから大電流を流しにくく、それを必要とする高性能な電子機器には不向きという課題があった。このような背景から、次世代半導体の開発においては、GaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)などの化合物半導体が注目されている。

 

光電融合技術

データセンターの消費電力問題を救う技術として注目を集めているのが「光電融合技術(こうでんゆうごうぎじゅつ)」で、電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合する技術のことである。従来のコンピューターでは、電気のオンとオフを切り替えることで、それぞれ数字の1と0に対応させた「2進数」を用いて計算を実行してきた。しかし電気は回路を流れる際に熱を発生させ、パソコンに複雑な処理をさせると、パソコン本体が熱くなってしまう。パソコンが熱くなるということは、本来必要のない熱を発生させることにエネルギーが使われているということを意味し、発熱すると電気の通り道の抵抗が大きくなり計算速度の低下にもつながる。

 そこで、これまで電気で行なっていた計算を、光を用いた処理に置き換える研究が進められており、コンピューターの内部回路を、できるだけ電気を使わず光でつなぐことを目指し、省電力かつ低遅延を実現させる研究が行われている。光には電気に比べてエネルギー消費が小さく、遅延も起きにくいという大きなメリットがあり、エネルギーの無駄遣いや処理の遅れを大幅に減らすことができる。

 

技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)

最先端半導体技術の研究開発と人財の育成を通じて、わが国半導体産業の持続的、自律的発展を担うことを目的とし、Rapidus株式会社、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、国立研究開発法人物質・材料研究機構、産業技術総合研究所、理化学研究所、国立大学法人東京大学、東京工業大学、東北大学、筑波大学の参画を得て、2022年(令和4年)12月21日に設立されました。その後、国立大学法人大阪大学、九州大学、名古屋大学、広島大学、北海道大学が参画し、14機関が参加する我が国の先端半導体研究および半導体人財育成をけん引する組織となっています。

 

2023年より2nm世代以降の最先端半導体にかかわる研究開発の検討を進め、研究テーマを策定し、2024年より2つのNEDOプロジェクトを推進しています。「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(委託)/Beyond2nm及び短TAT半導体製造に向けた技術開発」では、2nmBeyond向けデバイス・材料・プロセス要素技術および短TAT・クリーンプロセス装置技術の開発を進めています。

 

また、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(委託)/2nm世代半導体技術によるエッジAIアクセラレータの開発」では生成AIを含むエッジ推論処理用途に専用化したエッジAIアクセラレータの開発を国際連携により進めています。

 

開発した最先端半導体製造技術、およびAIアクセラレータを我が国産業競争力の強化に繋げるため、関連する新産業創出の検討、半導体人財育成の検討および育成事業を進めています。今後も最先端半導体技術の研究開発と人財の育成にかかわる様々な取り組みに努力してまいります。

関係各位のご指導・ご支援を宜しくお願い申し上げます。

 

技術研究組合 最先端半導体技術センター

理事⻑ 東 哲郎